本研究の目的は、遊泳中の選手の身体形状を高い時間分解能で正確に再構築するシステムを開発すること、及びこのシステムを活用して泳動作中の姿勢維持様式や呼吸様式の違いによる身体形状の変化を定量化し、それらが流体力に及ぼす影響を分析することであった。初年度には、静止姿勢での身体形状を身体表面メッシュモデルとして計測し、そのメッシュモデルを運動中の被験者からリアルタイムで計測した骨格運動データにフィッティングする方法論を開発し、陸上で単純な運動を行う被験者の身体表面形状を定量化した。2年目には、この方法論に改良を加えた後に妥当性を検証し、我々が開発した方法論は胴体が大きく変形する運動においても正確に重心位置を推定できることを示した。研究期間を延長した3年目には、電磁ゴニオメータシステムを用いて水泳中(クロール)の選手の骨格運動を240Hzで計測し、それに同選手の身体形状のメッシュモデルをフィッティングさせることにより、刻一刻と変化する遊泳中の身体形状を高い時間分解能で再構築することに成功した。また、再構築した身体形状は呼吸様式の違いに伴う骨格姿勢変化の特徴を反映することが確認された。したがって、本研究で開発した方法により定量化された身体表面形状は、遊泳中の選手に作用する水力抵抗や揚力の分析を行うに足る精度を有するものと考えられる。一方で、今後の課題も浮き彫りになった。問題は、呼吸様式の違いに起因する腹部形状の差異を十分な精度で定量化することができなかったため、呼吸様式によって最も大きく変化すると推測された「浮力が脚を沈める効果(浮力が泳者の身体を回転させる効果)」を正確に算出することができなかったことである。この問題を解決するには、遊泳中の腹部の周径囲を実測する等により、腹部形状の推定精度を高める方法論を構築することが求められる。
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