近年、骨格筋由来の分泌物(マイオカイン)が、他の臓器に情報を伝達し、生体のエネルギーバランスを調節する報告が見受けられる。しかし、これまでの報告を見ると、マイオカインの血中濃度の上昇程度では、他の臓器のエネルギー代謝を変えないと思われる。健康増進に必要不可欠な自発的運動は、マイオカインの分泌動態を変化させるが、その作用機序は不明である。本研究は、骨格筋からの末梢情報がエネルギー代謝に重要な脳と肝臓にどのように伝達されるのかを明らかにし、その候補物質を同定することを目的とした。申請者は,一週間のラット下肢の片側をギプス固定した骨格筋萎縮モデルを作成し、骨格筋からの感覚情報を片側性に伝達する後根神経を採取し遺伝子発現を解析した結果、ギプス固定側でのATP受容体の発現が亢進していた。これは骨格筋のATP放出が減少したことによる代償性増大か、炎症による筋損傷が拡大によるATP放出の増大のいずれかを予測させるものであった。ギプス固定後の変化を経時的な変化からさらなる検討が必要である。 片側ギプス固定ラットは、非固定ラットでは認められない、視床下部弓状核外側部のFosの発現が増大した。視床下部弓状核外側部は摂食抑制やエネルギー代謝亢進に機能するプロオピオメラノコルチン神経が集積するエリアで、筋萎縮やストレスが食欲不振に機能しているものと思われる。一方肝臓では、ギプス固定群において糖新生を促す酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の有意な増大が認められたが、グルコース-6-ホスファターゼの増大は認められなかった。筋萎縮は蛋白分解によってアミノ酸の放出を増大させると考えられるが、その受け皿として肝臓の糖新生が高まることが予想される。しかし、萎縮に伴う糖新生の変化は、最終的にグルコースまで変換されない可能性を示唆しており、肝臓への負荷が増大することが考えられる。
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