研究課題/領域番号 |
26560374
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
海老根 直之 同志社大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (30404370)
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研究分担者 |
北條 達也 同志社大学, スポーツ健康科学部, 教授 (40298740)
中江 悟司 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (80613819)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 安定同位体 / 水分吸収 / 体位 |
研究実績の概要 |
速やかな水分補給を達成するため,重要視されているのが水分の吸収速度ならびに胃排出速度である.これまでに実施されている研究は,実験室的に整えられた環境下で,組成や温度に代表される飲料自身の要因を検討するものが多く,方法論的な限界も相まって,フィールドで生じる他の挟雑要因を無視した議論となっていた事実は否定できない. 本研究では胃の解剖学的特徴と文献情報に基づき,胃排出速度を高める体位(右側臥位から20度上体を起こしたプロモートポジション:PP)を考案し,これが実際に水の吸収を促進するか否かについて検討を行った. 安定同位体で標識した水を被検者へ投与し,体内の同位体濃度を反映する尿試料を経時的な完全採尿により取得し,濃度の変化から吸収速度を評価した.投与から10分間PPとし,その後座位へ移行するPP試行,ならびに投与からサンプリング終了まで通常の座位で過ごす座位試行を設定し,クロスオーバー試験を実施した.被検者には両試行とも重水素水4 g を含む250 gの水を摂取させた. 同位体濃度は投与後60分時点において座位試行がPP試行よりも有意な高値を示した.座位試行で観察された著しい濃度の高まり(オーバーシュート)は,摂取した標識水の循環血液への流入量(≒吸収量)が,循環血液から細胞内液への拡散量を超えたために生じる現象で,座位で摂取した水が短時間に勢いよく循環血液に流入した証と考えることができる.また,摂取後の標識水は時間とともに全身の水分子と均一となり濃度平衡が生じるが,PP試行では座位試行とは明確に異なり,投与60分時点ですでにオーバーシュートは収束し,平衡に達するまでの時間を比較しても短い傾向にあった.尿量についても,40分時点において座位試行に比べてPP試行では約1.6倍となった.これらの結果から水分の吸収に特化した姿勢を活用することで水分吸収速度が促進できる可能性が明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,急速な水分補給が求められるスポーツの実施現場などにおいて,水分吸収速度を高める実用的な手段のひとつとして,体位・姿勢に着目した検討を行った.安定同位体標識技術を用いることで,水分子の吸収を直接的に評価することを可能とし,興味深い試験結果を得ることに成功している.また,事前に被検者に行わせた体水分の標準化手続が功を奏し,完全排尿で取得した尿試料の量自体が簡便な水分吸収の指標として機能する可能性を見出した点は,今後の方向性を探るスキャニングにおいて極めて有効に作用すると期待される.
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今後の研究の推進方策 |
現時点までに完了している検討では検討例数が十分とは言い難いため,研究規模の拡大を計画している.また,今回明らかとなった現象が,本研究が設定した特定の条件でのみ生じるものなのか,普遍性を持つものかについては,引き続き検討を行っていく. これまでに取得した知見を踏まえ,検討の目的に合わせて実験デザインを最適化することで,次年度はより効率の良い研究遂行を心がけていく. なお,ここまでに得られている知見については,積極的な学会発表ならびに論文化を行っていく.
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