研究課題/領域番号 |
26560388
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研究機関 | 公益財団法人労働科学研究所 |
研究代表者 |
長須 美和子 公益財団法人労働科学研究所, 研究部, 協力研究員 (60425444)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 母子保健 / インド / 参加型 / 食品衛生 / 離乳食 / 食中毒予防 / 下痢 / HACCP |
研究実績の概要 |
本研究の目的は母子保健分野で衛生・健康・栄養に関する参加型介入プログラムを新たに開発し、介入研究を実施して効果を検証する事である。 研究項目としては、子どものいる保護者を対象に①現状を調査し,②知識レベルの向上と離乳食の衛生状態の改善を促すべく現地の良好事例をもとにした教材を開発し,③参加型対策指向型の介入プログラムを実施すること。④その効果を科学的に測定すること、である。 2014年度は、上記の①から③の研究目的に関連する活動を中心に行い、主な成果としては次の3点があげられる。1. 研究に着手するため研究計画の打ち合わせを行い、公益法人労働科学研究所(日本)及びLondon School of Hygiene and Tropical Medicine (イギリス) から介入研究を実施するための技術的なサポートが得られ、NGO Centre for Education Development Action and Research (CEDAR) (インド)との今後の協力体制が整った事。特にインドは公衆衛生上の問題が山積しており、中でも子どもの下痢や栄養失調に起因する死亡率の高さは深刻な社会問題である。そこで、本研究のテーマである保護者を対象とした衛生教育プログラムの開発は、現地のニーズとも合致し、今後の母子保健の重要な課題であるとの確信を得た。2. Pilot formative research として調査予定地域であるマドゥライ近郊(インド)で観察法とインタビュー法を用いてNGOのスタッフと共に家庭、保健所、幼稚園などを見学し、現状に関する情報収集と教材開発のためのディスカッションを行った事。3. キーワード及び研究テーマに基づく文献研究と詳細な研究計画の立案が終了し、公益法人労働科学研究所の倫理委員会の承認が得られた事。よって引き続き研究を継続していく所存である
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を開始するにあたり、現在までにカウンターパートとの連携強化やミーティングを重ね、また調査方法や結果の測定に用いる細菌測定の手法の確認等、インドの研究地域でパイロット調査を行う準備はほぼ整ったと言える。 しかし、当初の研究計画よりやや遅れている理由としては、計画当初、研究対象地域はバングラディシュの農村部を予定していたが、バングラディシュ国内で政治状況の急激な変化が生じダッカやその近郊での安全面に問題が予想されたことから、これまでに従事していたインドのプロジェクトの関係者にNGOの紹介を依頼し、協力の合意に時間を要したためである。 また、本研究は人を対象とした介入研究であり、3か国に位置する研究機関、大学とNGOが関係しているため、すべての組織の倫理委員会の承認を得る必要が生じ、各国の倫理基準に則った申請書類の準備やその手続きに予想以上の時間がかかっている事があげられる。しかし、試料は離乳食や飲料水などの食品であり、研究計画については各機関のカウンターパートにおいて了承を得られている。また倫理委員会の承認は、公衆衛生学の研究結果として今後発表する際に必要不可欠であることから、正式な承認の手続きを行って、得られるように努めるのみである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、まず、(1) 出来るだけ早く2件の倫理委員会の承認を得る。次に、(2) 南インドの調査地域でFormative research を開始する。内容としては、乳児のいる保護者を対象に、1)観察法を用いて離乳食を実際に作ってもらい、調理中および乳児に食べさせるまでの保護者と乳児の行動を解析する。また、2)その離乳食や飲料水、食器の細菌検査を実施し、乳児の下痢の原因になるリスクファクターの特定に務める。3)現地の良好実践例や伝統的な育児方法を、家庭訪問をし、保護者を対象としたインタビューや、観察法を通じて住環境、特に衛生状況に関する情報を収集する。 (3)(2)で得られたデータをもとに、ワークショップに用いる教材の開発をする。 (4)パイロット調査のためのベースライン調査(離乳食と飲料水の細菌検査、基本的属性等に関する質問紙調査)を実施する。完成した教材を用いて,保護者を対象に1日ワークショップ(パイロット調査)を実施する。その後、介入プログラム(ワークショップ)の効果を判定するため、聞き取り調査と細菌検査を再度実施し、結果を比較する。 本研究は、当初の計画通りに可能な限り進める予定であるが、発展途上国の食品衛生に関する家庭での介入研究は世界的にも例が少ないことが文献レビューにより明らかになった。特に、近年の経済成長に伴い変化の激しいインドの農村部の一般家庭における離乳食の衛生に関する研究は数が少ない。また、移動時のガソリン代や人件費の高騰などインド国内の物価の上昇が研究を進めるにあたっての懸念材料となっている。そこで、現地の状況に則した食中毒を予防するためのファクターの発見と教材の開発に努め、基礎研究の結果を得ることを本研究の目的とする。そして、この結果をふまえ、今後、更なる介入研究のスケールアップと費用対効果の検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を開始するにあたり当初予定していた調査地域の政治状況により変更が生じたため研究計画が予定よりも遅れ、初年度に予定していた使用額と実際に使用した金額に差が生じている。また、新しいカウンターパートとの最初の打ち合わせでは、別件のプロジェクトと組み合わせて南インドへ出張することができたので、飛行機代や滞在費等を科研費から支出する必要がなかった。 しかし、昨年度予定していた研究計画は、すべて今年度の研究予定に組み込まれているため、年度末には余剰金はないものと予定している。
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次年度使用額の使用計画 |
計画としては、Formative research を開始し、家庭で離乳食を実際に作ってもらい、調理中および乳児に食べさせるまでの保護者と乳児の行動を解析する。また、その調理してもらった離乳食や飲料水、食器の細菌検査を実施し、乳児の下痢の原因になるリスクファクターの特定に務める。この調査協力のための費用が必要となる。また、ワークショップに用いる教材(チェックリストとパワーポイントのスライド)を開発する費用が予定されている。その後、ベースライン調査(離乳食と飲料水の細菌検査、基本的属性等に関する質問紙調査)と1日ワークショップの実施、及び介入プログラムの効果を判定するための聞き取り調査と細菌検査を再度実施する予定である。 使用計画は当初の研究計画通り進める予定である。
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