研究実績の概要 |
運動時の代謝・内分泌反応は、運動する時間帯の違いにより大きく異なり、また代謝・内分泌機能への影響は運動終了後まで続くので、運動が代謝に及ぼす影響はこれも含めて評価する必要がある。本研究では、最大酸素摂取量の60%強度で60分間の運動を朝食前か昼食後に行う運動試行と非運動試行の3条件で24時間の脂肪酸化と血中脂肪酸組成への影響を比較した。 24時間の摂取エネルギーと消費エネルギーが釣り合った条件下では、非運動試行に比べて、朝食前の運動は24時間で酸化される脂肪の総量を増大させたが(+47%, P<0.05)、夕方の運動が24時間の脂肪酸化を増やすことはなかった(+7%)。早朝空腹時の運動が24時間の脂肪酸酸化を増大させる機序として血中脂肪酸濃度について検討した。総脂肪酸、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸及び多価不飽和脂肪酸(n3系、n6系いずれも)は朝食前の運動後に上昇し(P<0.05)、また不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸比も上昇したが(P<0.05)、昼食後の運動では統計学的に有意な上昇は認められなかった。血液中の脂肪酸濃度の上昇はピルビン酸脱水素酵素キナーゼの活性化を介して炭水化物の酸化を抑制する(脂肪酸化の亢進)(Am J Physiol 281:E1151,2001; J Appl Physiol 98:1612,2005)。またn3系脂肪酸はPPARαの活性化を介して脂肪酸のβ酸化を亢進させる作用のあることが報告されている(J Nutr 131:1129,2001)。 これまで運動が代謝内分泌機能に及ぼす影響についての運動生理学実験は、食事摂取の影響を除外するなどを意図して早朝空腹時に行われることが多かった。一方、多くの人々は夕方に運動しており、実験室で実証された運動の脂肪燃焼効果を享受していない可能性が大きく、応用健康科学の今後の課題として示された。
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