網膜動脈は,身体内で唯一非侵襲的に観察可能な動脈であり,眼底鏡による網膜動脈走行の様態観察から動脈硬化が判定されてきた.失明の原因として最多である緑内障患者の6割は,網膜動脈の硬化が関与している.したがって,眼底動脈の硬化をより簡易に客観的に評価する指標の提案が望まれる. 我々は,携帯電話iPhoneにレンズを取り付けて眼底画像記録を容易にするアプリケーションiExaminarと,血管走行を数値化する解析を用いて眼底動脈の硬化が可能と予測した.全身の動脈硬化指標の主流である頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)との関連が認められれば,簡易な眼底観察だけでなく,全身血管の動脈硬化が判定可能となる.そこで,iExaminerで記録した眼底画像から網膜動脈走行を解析し,網膜動脈硬化の容易かつ適切な判定法を探索した.また,iExaminerを用いた判定が,眼底血管以外にも適用可能であるかを,若齢者と高齢者とを比較して,明らかにすることを目的とした.安静時の眼底血流速度およびIMTのデータを,18から90歳の健常者90名から得た.残念ながら,iPhoneおよびiExaminerを用いて,解析に必要な範囲の鮮明な眼底血管画像を得ることは容易ではなかった. そこで,同時に計測したレーザースペックル血流計によって得られた眼底血流速度の解析が動脈効果を示すかどうか検討した.IMTは年齢と正の相関関係が,血流速度から求めた指標(Blow-out time)は年齢と負の相関関係が認められた.また,Blow-out timeとIMTとの間にも負の相関関係が認められた.これらのことから,加齢に伴う動脈硬化を,眼底血流の波形解析から適用できることが示唆された.
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