研究課題/領域番号 |
26560403
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
山門 一平 東海大学, 医学部, 助教 (20328157)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 廃用性筋萎縮 / アレイ解析 / 遺伝子発現 / 血流 |
研究実績の概要 |
ラットの右下肢を10日間ギプス固定(Cast Immobilization)する廃用性萎縮実験モデルを用いて、SO-Fiber含有率の高いSM(Soleus Muscle)とFG-Fiber含有率の高いEDL(Extensor digitorum longus muscle)を対象とした。予備実験、先行研究通りの組織重量変化が認められ、再現性の確認後、Microspheres法による局所筋血流の計測を6h、1,4,10日で行った。結果、組織重量の変化は左右対象筋比較でSMの10日で有意に減少するものの、筋血流は6hで有意な減少が認められた。 筋萎縮に関わる遺伝子の発現変化を分析するために、DNAアレイ解析を行い、とりわけ、血流量と組織重量変化に相関するそれぞれの遺伝子群を精査した。大きな発現変動(FC>10)を示す86probesのうち、血流相関性の高いものが12probes、組織重量相関性の高いものが17probesであった。血流相関性の高いprobesのGOプロファイルの特徴はBiological processに関係するもので、血流相関性の高いprobesではCellular Componentであった。詳細の検討は27年度に引き継ぐが、現段階で、血流の低下は筋内のある種の代謝を抑制し、これがトリガーとなり、構造遺伝子群を主にダウンレギュレートし、筋の萎縮が進むことと予測される。初期の変化である血流相関性の高い遺伝子群の中にはAtf3などの調節系の中心的な役割となる遺伝子が含まれ、組織相関性の高い遺伝子群にはAnkrd2など筋線維構造に関わる構造系、および転写因子のいくつかが含まれている。さらにその後に、分解系が進展することで、筋萎縮が可逆的なものから不可逆的なものへと移行すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年においては、研究実施計画としては実験モデルと実験系の確立、基礎データの蓄積・筋萎縮プロセスの誘導と確認、筋萎縮トリガーについて研究を進めるとしていたが、基礎研究データの再現性が高かったために、予定よりも小規模の実験で有益なデータが取得することができた。とりわけ、不明であった遺伝子発現の動態解析が科研費の効果によって効率的に行うことができたので、より一層、加速的な研究が達成できた。従来、困難であった、筋血流の動態解析についても、Microspheres法とその応用実験によって十分なデータが取得でき、我々の予想以上に、Cast Immobilization後、短時間の間に血流が低下し、低灌流状態で維持されることSO-Fiberを多く含むSMで起きていることが分かった。血流変化と組織重量変化に大きなタイムラグが発生することが結果から分かり、それに相関する遺伝子群をDNAアレイ解析によってピックアップすることが可能となり、廃用性萎縮のトリガーと発展プロセス解明へのきっかけとなることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究および26年度の研究結果から、筋萎縮の過程で特にSO-Fiberに欠かすことの出来ない酸素運搬能の主体である循環器系、血流変化が大きなトリガーとなることが推察されている。本研究の背景でもある、サルコペニアや寝たきりの筋萎縮も同様に血流と筋の萎縮の関係は、重要なテーマであると再考させられている。27年度においては、筋萎縮のトリガーを遺伝子レベルで同定させ、多目的・多因子的解析を利用し、各因子を決定する。筋原線維の変成とその拡大のプロセスをまとめ、筋萎縮の発現過程については、遺伝・生化学的なPathwayとして詳細に分析を続ける。血流とSMの萎縮にはとても大きな相関関係が生理的構造的にあると考えており、これを証明し、遺伝子レベルにおいてもそのPathwayを同定したいと考えている。 その後、血流コントロールにおける筋萎縮の抑制が可能であるか、実験を行い、ヒトへの応用的治療の可能性を検討する。すなわち、血流を改善することで、筋萎縮の誘導を抑制し、筋重量低下を抑制することが目的となる。 また、筋萎縮の特性は若齢を老齢で異なることが知られており、この点についても実験動物による研究から、血流に着目をした分析法によって、検討を続けたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
基礎実験が予想以上に適切であったために、実験規模を縮小することができたことが影響した。しかしながら、一部の実験(老齢実験)に関しては、予想よりも実験開始時期が遅延したために、予算消化が満たされなかった。この分の研究試薬等に関しても次年度での使用と変更をした。 今後も、研究ガイドラインに遵守し、動物愛護の観点からも必要最低限の動物実験として、採取された組織から有益なデータを抽出することに努める。一方で、詳細な遺伝子解析などには多大な費用が必要となるので、必要最低限の犠牲と最大限の解析費用として、27年度も研究を継続させていく。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度の実験計画に変更は無いが、26年度に使用されなかった予算は、当初の予定通りに詳細な遺伝子解析に使用する。 以上より、実験目標と目的に充足する研究を行い、最終年度としてのまとめに着手する予定である。
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