研究課題/領域番号 |
26560429
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 敬行 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90567760)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 機能性ペプチド / 機能性RNA / in vitroセレクション |
研究実績の概要 |
本研究課題では、小分子やタンパク質などの特定の生体分子を標的として特異的に結合する生体内RNA および生体内ペプチドの探索を進めている。そして、そのための新しい手法として生体由来RNA画分を用いたin vitro セレクション法の確立を目指している。既存のRNAに対するSELEX法やペプチドに対するmRNAディスプレイ法などのセレクション法では、通常は完全にランダムな配列からなるRNAライブラリやペプチドライブラリを用いて標的に結合する分子の探索を行うが、本手法では生体から抽出したRNAやそれを翻訳したペプチドをライブラリとして用いることにより天然に存在するRNA やペプチドと標的分子との相互作用を探索する。 これまでにヒト培養細胞から抽出したsmall RNA画分を用いてRNAライブラリの構築を行い、これを用いて葉酸を標的としたin vitroセレクションを実施した。その結果、葉酸に結合するとみられるsmall RNAの配列を複数種類同定することに成功し、中でもマイクロRNA前駆体の一つであるpre-miR-125aに対する着目してその結合能の解析を進めた。 また、生体由来のsmall RNAから翻訳したペプチドライブラリの構築に成功し、これを用いてKeap1やcMet、Lgr5、アンジオテンシンレセプターなどのタンパク質を標的としてペプチドのin vitroセレクションを実施した。その結果、実際にこれらの標的タンパク質に結合するペプチド配列が複数種類得られた。現在、得られたペプチドの結合力や標的特異性の検証を進めている。また、ペプチドライブラリの改良を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
天然RNAライブラリを用いたin vitroセレクションにおいては、磁気ビーズに固定化した葉酸を標的とするsmall RNAのセレクションに成功しており、葉酸に結合するRNA配列を複数種類同定することができた。得られた配列のうちいくつかはライブラリ作成の際に付加したアダプター配列が存在しないと葉酸に結合できないアーティファクトであったが、ヒトマイクロRNA前駆体の一つであるpre-miR-125aについてはアダプター配列がなくても実際に葉酸に結合することが確認された。さらに、葉酸がpre-miR-125aのどの部分に結合するかを解析するためにpre-miR-125aの様々な箇所に変異を導入した変異体を作成し、葉酸との結合力を解析したところpre-miR-125aのループ部分に葉酸が結合していることが示唆された。上記の内容は、2016年12月にRNA誌に論文として発表した。 天然ペプチドライブラリ用いたin vitroセレクションについては、Keap1、cMet、Lgr5、アンジオテンシンレセプターを標的とするセレクションを実施した。その結果Keap1については複数種類のペプチド配列が得られており、Keap1の既知のリガンドであるNrf2中に含まれるペプチド配列の獲得にも成功したため、本手法が生体内のタンパク質間相互作用の検出に有効であることが示された。また、Nrf2のほかアストラタクチン由来の新規結合配列の取得に成功し、この手法が未知のタンパク質間相互作用の探索にも有効なものであることを示した。現在、得られたペプチドを化学合成し細胞内での相互作用様式の解析を進めているところであるが、ペプチド合成用の施設が火災のため使用できない状況となったため中断中である。その他、ペプチドライブラリの改良のための手法の確立を進めている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
Keap1結合ペプチドの解析については、被災したペプチド合成設備が復旧でき次第(平成29年6月頃を目処)再開する。化学合成したペプチドを用いて表面プラズモン共鳴法などによりペプチドの試験管内での結合力の評価を行うほか、細胞内で実際にKeap1に結合するか否かをプルダウンアッセイによって検証する。特に、アストラタクチン由来のペプチドはタンパク質の細胞外ドメイン部分に相当するため、実際に相互作用するためにはペプチド断片が細胞内に取り込まれる必要がある。そのようなメカニズムが存在するか否かについても検証を行う。Keap1以外の標的に結合するペプチドについても順次配列を同定し、ペプチドを化学合成して結合力等の評価を進める。 また、天然ペプチドライブラリは細胞から抽出したRNAを断片化しORFに組み込んで翻訳させることによって調製しているが、この手法だと3分の2の割合でフレームシフトしたペプチドが得られてしまうため、フレームシフトしたペプチドをライブラリから除去するための新しい手法の開発を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度において、天然ペプチドライブラリによるin vitroセレクションから得られたペプチドを順次化学合成し結合力等の評価を進める予定であったが、ペプチド合成に必要な設備が火災により焼損し使用できない状況となったため、該当する一連の実験を一時中断することとなった。そのため、関連する実験に必要な試薬や消耗品費用を次年度に回すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
被災した合成設備は平成29年6月頃より再稼働できる見込みであるため、稼働次第ペプチド合成関連の実験を再開する。そのために必要な試薬や機器、その他消耗品購入費用として充当する。また、ペプチドライブラリの改良のための研究も引き続き行う予定であることから、関連する試薬や機器、その他消耗品購入費用として使用する。
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