本課題で使用するDT40細胞株では、抗体遺伝子座で相同組換えの一種である遺伝子変換が起きている。この遺伝子変換を利用した二重特異性抗体作製系を開発するのが本研究の目的であるが、平成26年度においては、まずジーンターゲッティングにより遺伝子変換頻度を簡便にモニタリングする技術開発に成功し、次にこのモニタリング系を活用し、二重特異性抗体作製系が可能になるよう抗体遺伝子座を改変したDT40細胞の作製を行った。その結果、二つの抗原に特異性を有した抗体を創出しうる形で遺伝子変換が起きることを示唆する結果を得ていた。ただし上記はジーンターゲッティングの際に使用したマーカーがまだ残った状態で得られた結果であった。将来的な技術開発にはマーカーを除去しても同様の結果が得られる必要があるため、平成27年度においてはマーカーの除去作業を実施した。その結果、マーカーを除去した状態でも除去前と同様に遺伝子変換のモニタリング系が機能すること、また二重特異性抗体を創出しうる形で遺伝子変換が起きることを確認した。さらにこの遺伝子変換をTSA(遺伝子変換を亢進させる薬剤)処理で亢進させることにも成功した。 また本研究では遺伝子変換活性のオン、オフを適宜制御できることが重要であり、ニワトリゲノム上の関連する領域を利用してこれを実現する計画であった。平成27年度は本領域のクローニングを行うとともに、遺伝子変換モニタリング系と組み合わせ、遺伝子変換活性を制御可能な形で挿入したベクターを作製した。 野生型DT40細胞はニワトリ抗体を発現しているため、より医薬品開発に適したフォーマットに改良する目的で、平成26年度において軽鎖、重鎖とも定常領域をヒト型配列に変換することにも成功している。以上より、研究期間全体を通し、医薬品向け二重特異性抗体ライブラリを開発する上で必須な要素技術が開発できたと言える。
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