研究課題
本研究では、脂質二重膜環境の違いが脂溶性小分子の構造とタンパク質との分子認識に与える影響を検証する。小分子として脂肪酸、タンパク質に脂肪酸結合タンパク質(FABP3)を用いる。リポソーム相状態の影響を調べる目的で、コレステロール(Chol)の含有量を0~30 mol%まで変化させたDMPCリポソームにパルミチン酸(C16:0)を担持し、FABP3とC16:0の結合親和性を調べた。Cholを含まないDMPCは無秩序流動相(Ld相)であるが、Chol含有量が増加するに伴い秩序流動相の割合が増え、30%Cholでは秩序流動相(Lo相)のみになる 。その結果、結合親和性に対しては影響が小さく、DMPC-Cholの系ではLd/Lo間の相状態選択性はないことが判明した。一方、熱力学パラメータのバランスは大きく変化した。全ての条件でエンタルピー駆動の反応が見られたが、0~10%までCholの含有量が増えるに従い、リポソームからFABP3への脂肪酸受け渡しによるエントロピー変化が、損失から利得に変わった。Cholを含まないDMPCにおけるエントロピー損失は、柔軟なLd相中で高かった脂肪酸のコンフォメーション自由度が、FABP3への結合・固定化により低下したためと説明できる。CholはリポソームからFABP3への脂肪酸受け渡し反応のエントロピー利得を増やす方向に働いた。この効果は、脂肪酸とCholが1:1のストイキオメトリになるまで増大し、それ以上では変化しなかった。この結果から、DMPC膜中で脂肪酸とCholは1:1の分子間相互作用により自由度の低い状態にあり、FABP3により膜中の脂肪酸が抜き取られることでCholの自由度が高まり、エントロピー利得を生んだものと考察される。今後は、今回得られた熱力学パラメータの変化について、分子構造に基づいた機構解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
コレステロール含有リポソームを用いた等温滴定熱量測定により、FABP3-脂肪酸結合反応における脂質膜の相状態の影響を明らかにできた。DMPC-Chol二成分系の脂質相状態は、FABP3-脂肪酸結合親和性でなく熱力学パラメータのバランスに影響していたため、熱量測定以外の方法では検出が困難であった。選択した方法論が本研究の目的を達成するために上手く機能した結果と言える。初年度に現象を捉える事ができたため、以降の構造研究がスムーズに展開できると考えている。
今後はDMPC二重膜中での脂肪酸の立体構造解析を進める。DMPC-Chol二重膜中に2H/13C標識脂肪酸を添加し、ガラス配向膜試料を用いた四極子相互作用/化学シフト異方性解析により脂肪酸の立体構造変化とFABP3との結合反応の熱力学パラメータ変化の相関を明らかにする。
研究開始前から所有していた器具などが利用できたため、資金を節約できた。
翌年度に利用する標識体調製に利用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Magn. Reson. Chem.
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