研究課題
本年度は、生細胞表層への効率的機能性分子導入法と、複数種の糖鎖によるパターン認識模倣分子合成法の開発に成功した。まず、生きている細胞の表層に温和な条件下、機能性分子を簡便に導入する方法を開発した。申請者らが化学合成したリンカー分子と、容易に入手可能な機能性分子として蛍光分子を混合し、モデル細胞のヒト臍帯静脈内皮細胞に加えるだけという極めて簡便な操作で細胞表層に蛍光を導入できた。本方法は既存の蛍光ラベル化法と比べても導入の効率性に優れており、わずかな量の試薬で短時間処理するだけでも、細胞の機能を損なうことなく明瞭な蛍光を観察することができる。また、蛍光物質にかぎらず、放射性物質や糖鎖などの生体分子といった幅広い機能性分子に応用が可能な一般的な手法である。また、近赤外蛍光を発する色素で標識したモデルタンパク質に対して、前年度に開発した糖鎖複合化法を繰り返し用いることで、同じタンパク質上に複数の構造の糖鎖を有する人工糖タンパク質の合成に初めて成功した。本手法は幅広い構造の糖鎖に適用可能であり、タンパク質上に導入される糖鎖の比率は、加える試薬の量により容易に調整が可能である。糖鎖は単独では受容体との相互作用が弱く、構造の異なる複数の糖鎖がそれぞれ別の受容体に同時に認識されることで標的細胞への高い親和性を発揮するパターン認識が生体内で重要な役割を果たすとされている。今回申請者らの開発したタンパク質への複数種糖鎖導入法によって、初めてこれら糖鎖のパターン認識を高度に模倣する分子を創生することができた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、申請者らの見出した高効率的複合化系によって、生きている細胞表層上に各種機能性分子を複合化することに成功した。本方法は温和な条件下簡便な操作で実施することができる。また、同一タンパク質分子上に複数種類の糖鎖を任意の比率で複合化する方法論の開発に初めて成功し、糖鎖の組み合わせパターンによる高選択的な生体分子認識の実現に向けて需要な知見を得ることが出来た。本年度の研究は、研究実施計画の通りに順調に進行したと言える。
本年度の研究で初めて合成された、同一タンパク質上に複数種類の糖鎖を結合させた生体分子は、その組み合わせがパターンとして生体に認識される。これにより、単一の糖鎖だけでは実現できなかった動物内での代謝経路や速度の制御、さらには腫瘍選択的なターゲティングが可能であるという予備的知見を得ている。現在、組織やイメージングの専門家であるロシア・カザン大学のKiyasov教授やTayurskii教授との共同研究に加えて、Kurbangalieva准教授の研究室でさらに多くの種類の糖鎖試薬の合成が進行しており、より細胞選択的なターゲティング法の開発に向けて研究を加速している。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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