研究実績の概要 |
ヒト上皮成長因子受容体2(human epidermal growth factor receptor 2; HER2)は卵巣がんや乳がんなどの患者で過剰発現が認められ、病態の予後不良と強い相関がある。HER2の細胞内取り込みによる受容体シグナルの遮断は病態治療に有望であるが、所望の作用を有する化合物のハイスループット探索は従来技術的に困難であった。本研究では、近年研究代表者らが開発した酸性環境検出蛍光プローブ(Asanuma, D. et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 53, 6085-6089 (2014))を利用し、前年度までに、HER2の細胞内取り込み作用を高感度かつ特異的に評価するcell-basedハイスループットスクリーニング手法を構築し、約155,000化合物のライブラリーから3種類のヒット化合物の取得に成功した。本年度は、ヒット化合物および周辺化合物のHER2ダウンレギュレーション作用について評価を行った。細胞膜上に存在するHER2量を指標に作用評価を行った結果、ヒット化合物はいずれも細胞表面HER2のダウンレギュレーションを顕著に誘導することを明らかにした。周辺化合物についても同様の評価を行い、構造活性相関を検証した。また、ヒット化合物については、いずれもHER2の分解を誘導することを明らかにした。HER2の細胞内取り込み/分解のダウンレギュレーション作用について検証したところ、ヒット化合物のうち2種類は既存の作用経路を介さず、従来とは異なる作用標的/経路が示唆された。本結果は、構築したcell-basedスクリーニング手法が、分子標的に関わらず細胞表現型(フェノタイプ)を指標に網羅的に作用分子を取得することが可能であることを示している。また、本研究で実証したスクリーニング手法の原理は、他の受容体を標的とした細胞内取り込み評価に応用可能であることも示した。
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