様々な生命現象の発現・制御に重要な役割を果たしている硫化水素の生体内局在を観察する手法が強く求められているものの、微量かつ短寿命の硫化水素を生体内で高感度に、しかも定量的かつリアルタイムで検出することは未だに容易ではないことから、本研究ではこれを実現するべく、生物発光基質であるセレンテラジンの構造を改変し、アジド基を有する新規セレンテラジンの開発を目指して検討を行った。アジド基を有するピラジン類の硫化水素による変換を念頭に、さまざまな置換基を有する芳香族アジドの還元反応に関してさまざまなホスフィン類を用いて詳しく調べたところ、適切なホスフィンの選択によって芳香族アジド基を効率的に還元できることを明らかにできた。さらに、プローブ合成を念頭にした多置換ピラジン合成に関する検討の結果、逐次クロスカップリング反応を経る多置換ピラジン合成法の開発に成功した。とくに、パラジウム触媒と有機亜鉛反応剤を用いるカップリング反応において、反応条件に関して細かく調べていくことで、高収率でクロスカップリング生成物を得る反応条件を確立できた。以上の結果から、硫化水素を検出できるセレンテラジン型プローブの開発研究に取り組む中、アジド基の予期せぬ反応性に直面し、アジド基を変換する新しい反応条件を発見するとともに、ピラジン環上の修飾反応に関する検討の中、セレンテラジン型プローブの開発における基盤となる多置換ピラジン類の簡便合成法の開発に成功した。
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