研究課題
以前の研究で、脂質が結合するタンパク質の結晶X線回折によって脂肪酸のアルキル鎖の一部が直に水分子と接していることが明らかとなった。この相互作用が脂肪酸の特異的結合に重要であることを示唆しているので興味が持たれた。本研究では、タンパク質の中に脂肪酸が結合するモデルに加えて、膜タンパク質における周辺脂質との相互作用についても解析を試みた。脂肪酸結合タンパク質(FABP3)の変異体において、水分子の働きを詳しく調べられる系を発見した。これを用いることによって、天然体とのわずかな水分子の構造の違いをある程度定量的に議論できるようになり、より詳しい水の働きを解明する契機を得ることができた。また、脂質とタンパク質と周辺脂質の相互作用を直接観測するのは非常に困難であることが判明した。この対策として、古細菌により発現したバクテリオロドプシン(bR)に着目し、NMRによる動的相互作用解析を試みた。化学合成によって2H/13C標識した脂肪酸を結合させて脂質・bR複合体を作製し、重水素広幅NMR(13C緩和時間)を測定することによって、タンパク質および脂質の運動性に関する情報を取得することに成功した。これらデータを基に膜タンパク質と脂質分子の相互作用に果たす水分子の役割についての議論を深めた。分子動力学計算によるモデル系の創出については、研究協力者の支援を得て、脂肪酸・水分子・タンパク質複合体について配座制限下と非制限下で分子シミュレーションを行い、上記の分子運動を再現することにある程度成功した。
2: おおむね順調に進展している
重要な生体機能を担っている疎水性分子の相互作用を分子論的に理解するために、「脂質分子と水分子の相互作用が脂質・タンパク質の親和性を強める」との仮説を実験的に検証することにある程度のめどをつけることができたた。膜タンパク質を含めて細胞膜における相互作用では、疎水的因子が支配的と考えられがちであるが、周囲に存在する水分子が熱力学的には重要な役割を果たしている。本研究では、これを分子論的に記述することを目指し、今年度は結晶X線やNMRなどの実験的アプローチと計算化学を組み合わせることによって、脂質分子に特有な分子運動とそれに連動する水分子の相互作用の分子論的基盤を解明する端緒を得ることができた。
本年度に引き続いて、脂肪酸結合タンパク質(FABP)と脂肪酸の複合体について熱測定および結晶X線とNMR測定を続ける。動力学計算には、研究協力者の支援を得て新しい力場を用いて、タンパク質・脂質分子・水分子の分子複合体について相互作用を評価する。まずは、FABPと脂肪酸について、結合ポケットを形成するアミノ酸側鎖と脂肪酸アルキル鎖について、分子動力学計算を実施する。さらに、変異体の脂肪酸結合ポケットのなかの水分子が脂肪酸の安定化に対する寄与についても計算的手法によって、より定量的な評価を試みる。バクテリオロドプシンに関しても、標識脂質を用いたNMR実験を実施し、膜タンパク質モデリングのためのパラメータの取得に向けた実験を実施する。
村田研究室HP http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/murata/
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