研究課題/領域番号 |
26560450
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
渡辺 賢二 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (50360938)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 天然物化学 / 生合成 / シンセティックバイオロジー / ケミカルバイオロジー / コリバクチン / 大腸菌 / 大腸がん |
研究実績の概要 |
【背景・目的】コリバクチンは大腸菌IHE3034株が哺乳類細胞に感染した後、哺乳類細胞からの何らかのシグナル物質により誘導される化合物であると予測されている。従って、本化合物の単離は困難であり、未だ部分構造ですら明らかにされていない。一方、大腸がん発症患者の66.7 %から本菌が検出されている。そこで、本化合物の正体を有機化学的に明らかにし、大腸がん形成メカニズムの解明および予防のためのバイオマーカーとすることを目的として研究に着手した。 【方法・結果】我々はコリバクチン生合成に必要とされるclbA~clbQの各遺伝子を発現し、in vitro反応による生合成経路の再構築を試みた。これまで、ペプチド合成酵素 (nonribosomal peptide synthase, NRPS) であるClbNより生合成が開始され、次にNRPSとポリケタイド合成酵素 (PKS) 複合体であるClbBへ受け渡されることが報告されていた。そこでClbN、ClbBの発現ベクターを作製し、これを用い大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体の代謝産物をLC-MSに供した結果、ミリスチン酸、D-AsnおよびL-Ala縮合体の生成が観測された。本化合物はClbNとClbBのNRPSにより生合成されるものと予測され、ClbB のPKSによる代謝産物を確認することはできなかった。これはClbBのC末端にチオエステラーゼは存在せず、生合成中間体が切り出されなかったためと考えられた。そこで化学合成した推定生合成中間体を標品とし、ClbNとClbBの生合成産物を解析した。その結果、ClbNはN-myristoyl-D-asparagine (1) を生産していることが明らかとなった。次に、本化合物をClbBと反応させたところ、ClbB代謝産物は1とL-Alaおよびマロン酸縮合体 (2) であることが特定された。続いて、2を基質に遺伝子クラスター内の各PKSと反応させたところ、新規代謝産物中間体を見いだすことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では化学構造を解析するに至っていなかったが、平成26年度の実験によってコリバクチンの部分構造を特定するに至ったため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究開発において予想される最大の問題点は、コリバクチンの化学構造決定に多くの研究時間が必要になることである。コリバクチンのオリジナルの生産菌は大腸菌であるため、生合成遺伝子を大腸菌発現系で発現させ酵素を獲得することは本研究においてこれまで順調に進んできた。また、基質に関しても大腸菌代謝産物であるため、コリバクチン生産菌の無細胞抽出液を用い変換反応を行いその生成物の解析から容易に同定できると予想される。一歩一歩確実にコリバクチンの部分構造を解き明かし、全容解明に近づく。しかしながら一方で、時間を要することが予測される。そこで、有機合成によって基質となる生合成中間体を得られた化学構造に基づき合成し、できるだけ反応に関与する生合成酵素の数を減らすことで、生成物を可能な限り多く獲得するといった研究も遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の額が当初予定していた額よりも値引によって低くなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
コリバクチンの化学構造を可能な限り早期に特定するため、有機合成試薬を購入する予定である。
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