研究実績の概要 |
大腸癌患者の67%、炎症性腸疾患患者の40%からコリバクチン生産菌が検出されたことから、コリバクチンは遺伝毒性物質として発がんに深く関与すると考えられている。ところが、約10年前からその存在が認められているコリバクチンであるが、化学構造は未だ決定されていない。化学構造が不明な現状ではコリバクチンによる詳細な大腸癌発症メカニズムの解明、治療法、予防法の確立は困難である。そこで我々は、コリバクチン化学構造の解明を目指すとともに、日本人コホートにおけるコリバクチンと発がんとの関連性を調査すること、加えて、コリバクチン生産菌と腸内細菌叢、それに係る食事・生活要因の関連性の解明を目指して研究を行っている。 コリバクチン化学分析法樹立に向けて検討を行った。理研より16種類の大腸菌株を購入した。また、コリバクチンを生産することが確かめられているNissle1917も入手した。これらすべての菌株に対して全ゲノム解析を行った。解析の結果、Nissleをはじめとし、strain3および4にコリバクチン全生合成遺伝子群がコードされていることを確認することができた。続いて、コリバクチンの検出方法を確立すべく、培養液をLCHRMSで分析したところペプチダーゼClbPによって加水分解されたプロドラックモチーフ(m/z+ 343.2591)をstrain3, 4およびNissleのみから観測することに成功した。これによってコリバクチンの間接的観測方法を確立することができた。 さらに糞便を分析対象とし、適切な前処理を行うことでコリバクチン関連物質を高感度に検出することに成功した。また、高額な機器を用いることなくコリバクチンを検出可能な「プローブ分子」を設計・合成した。一方、糞便から抽出した腸内細菌由来メタゲノムを調査し、食事・生活要因との関連について現在解析を進めている。
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