現在、マラリア感染症は、地球温暖化および交通手段の発達などにより、熱帯地域から温帯地域へと感染範囲を拡大しつつある。さらに、主要なマラリア治療薬に止まらず、近年開発された治療薬に対しても薬剤耐性マラリアの発生が既に確認されており、これまでにない作用機構で抗マラリア活性を発揮する新規治療薬の創出が課題となっている。そこで、本研究課題では、前年度に引き続き、赤血球内の金属イオンに相互作用することでマラリアの増殖阻害活性を発揮する分子リガンドを探索し、それらの作用機序・細胞毒性などを多角的に解析・評価することで、新たなマラリア治療薬候補としての価値を見出すことを目的に取り組んできた。そして、当該年度において、これまでに発見した分子リガンドが、既存薬であるクロロキンの耐性マラリア株および多剤耐性マラリア株に対してもnMレベルで増殖抑制を発揮できることを明らかにした。さらに、ヒト/マウスに由来する哺乳類細胞に対して毒性評価を実施したところ、数μM以上でしか毒性を示さなかったことから、本研究で見出した分子リガンドのマラリア原虫に対する増殖阻害活性の特異性が極めて高いことが判明した。また、今後の展開としては、本研究の遂行により獲得した研究成果を足掛かりに、薬剤耐性が出現しにくいと考えられるマラリア増殖阻害剤の構造展開や高度化を推進することで、実践的なマラリア治療薬候補を創出することを目指している。
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