本研究の目的は、臨床で同定されたヒト疾患関連遺伝子の知見を元に、新規遺伝子改変技術を用いて疾患モデル動物を作出することである。ヒトで疾患表現型との相関性が示唆されるアミノ酸レベルの変異を、CRISPR/Cas9システムを用いてモデル動物の内在遺伝子座に導入し、疾患との因果性を明らかにすることを目指した。疾患としては睡眠障害に注目し、モデル動物としてショウジョウバエを用いた。 研究代表者は睡眠障害の診断・治療に携わる中で、Kleine-Levin症候群が一卵性双生児双方に発症した症例を経験した。Kleine-Levin症候群は原因不明の睡眠障害で、間欠的に過眠症状を繰り返す疾患であり、疾患症例自体が稀少であることに加え、一卵性双生児に発症した症例は世界初であり、国際誌に報告した。本研究では患者である双生児ならびに両親のゲノムDNAを抽出し、Exomeシークエンスを行うことにより、疾患関連遺伝子の同定を試みた。Kleine-Levin症候群の疾患関連遺伝子の絞り込みについては、現在、Stanford大学のグループと共同で症例を増やして解析中である。 さらに、睡眠障害を合併する精神疾患として、自閉症スペクトラムに注目し、CRISPR/Cas9システムを用いた疾患との因果性の解析を進めている。自閉症スペクトラムでは高率に睡眠障害を合併し、睡眠覚醒リズム障害の合併も多い。これまで、自閉症スペクトラム患者において疾患関連遺伝子が同定され、データベースが作成されている。ヒト遺伝子との相同遺伝子をショウジョウバエゲノムで探索したところ62遺伝子が見つかり、それら遺伝子をターゲットとしてCRISPR/Cas9で変異を導入している。今後は得られた変異体における睡眠覚醒の表現型を解析し、自閉症スペクトラムにおける睡眠障害の原因遺伝子を探る。
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