これまでに開発してきたトラッキングシステムを用い、温度勾配上を自由に行動する線虫を高倍率の対物レンズ下で追尾し、AFD神経細胞とAIY神経細胞に対する同時カルシウムイメージングを実現した。AFD神経細胞とAIY神経細胞は非常に近接しており、軸索と樹上突起が神経環と呼ばれる構造上で接続しているが、AFD神経細胞に核局在シグナルを含んだカルシウムプローブを発現させることでAFD、AIYそれぞれの蛍光シグナルが干渉しない状況を作り、それぞれの蛍光シグナルを同時に計測した。核におけるAFDのカルシウムシグナルは細胞体とほぼ同じタイミングでシグナルが変化することを確かめ、自由行動下での計測も実現した。さらにこのトラッキングシステムから得られる動画データを解析するため、画像解析プログラムの開発を行った。自由行動下では画像内での神経細胞の位置、形状が変化するため、まず輝度値に従って自動的に神経細胞領域を抽出し、さらに抽出した領域における神経突起の特徴点を抽出するプログラムを開発した。この抽出した神経突起中の特徴点は時間ごとに変形する神経突起の位置合わせに用い、自由行動中に変化する神経突起であっても対応する位置関係を保つ補正を行った。最終的に、神経細胞体を中心とする極座標空間に蛍光シグナルを投射し、抽出した特徴点を基準に位置合わせを行うことで、自由に行動する線虫に対しての時系列解析を可能にした。 またAFD神経細胞にヒスタミン依存性ClチャネルHisCl1を発現させた系統を作成し、神経活動を制御することによってAFD神経細胞とAIY神経細胞間における情報伝達の様式を定量した。さらにAIYの神経活動計測と、温度勾配を探索しているときの行動要素を比較することで、介在神経細胞の活動が探索行動にどのように関わっているかを定量した。
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