研究課題
ヒトの概日リズムは、思春期になってはじめて確立されると言われ、胎児期、発達段階の小児期には、まだ発達段階に止まる。そのためか、小児の睡眠覚醒リズム障害は、正常小児でも見られる一般的な現象であり(25%)、発達障害児にはもっと多く、特に、自閉症スペクトラム(ASD)やFragileX症候群(FXS)ではきわめて普遍的に存在し(60-95%)、治療上も、そのケアする家族にとっても大問題となっている。今回、強固な遺伝子制御を受ける概日リズム系が、生育環境によるエピジェネティック変異を受けるかどうかを検証した。我々は、遺伝的に脆弱な時計遺伝子を持つ仔マウスが、育児期に正常行動リズムを持つ母親マウスに育てられるのと、異常リズムを示す母親マウスに育てられるときとを比較した。遺伝的均一で時計遺伝子のハプロ不全を作成し、リズム不全の母マウスに育てられたときと、正常マウスに育てられたときとで比較する。リズム不全マウスは、妊娠維持の両面で問題があり、出産効率は悪いが、飼育条件を向上することで、我々の施設では交配可能となった。具体的には、妊娠確認直後(妊娠中期)から恒常暗条件で妊娠期、育児期を過ごさせ、離乳後初めて明暗条件の下で生活させる。このような胎児期、育仔期を通じでタイムキューTime cues(時刻を認知させる要因)の全く無い環境で飼育すれば、仔マウスは母親の体内リズム産生機構が作る時間要素と、自らの遺伝子で規定された体内リズム産生機構の作る時間要素のみで時刻を知ることが出来る。マウスの行動リズム異常の検出は、赤外線センサーにて行なった。健常な母親に妊娠・飼育させられると、ハプロ不全のマウス-は全く異常なフェノタイプを示さないが、異常な母親の妊娠飼育時には、離乳後に異常な行動リズムを示した。このことにより、発達期のエピジェネティックな変動は、生体リズム系にも起こりうると考えられる。
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