研究課題/領域番号 |
26560469
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉浦 悠毅 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (30590202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳代謝 / イメージング質量分析 / fMRI / グルコース代謝 |
研究実績の概要 |
脳機能イメージングはfMRI(functional magnetic resonance imaging)などを用いて行われるが,これらは中枢神経細胞の活動に応答する『間接的』指標を検出するのみで,脳局所の活動にどのようなエネルギー代謝分子が関連しているかは明らかではない.本研究では,代謝分子の局在を可視化する「質量分析イメージング」を発展させたグルコース代謝のフラックス(流束=流れ)のイメージング法(申請者独自の手法)により,活動「脳局所」でどのようなグルコース代謝経路が用いられているかをイメージングにより明らかにする. 詳細には投与した標識グルコースが外部刺激に応答する脳領域で「どのような」代謝分子に変換されたかを網羅的に可視化し,さらにfMRIとの相補使用により, 血中酸素濃度依存的シグナル(BOLD)信号応答領域でのin vivoエネルギー代謝実態を解明する.
本年度は,安静時のマウスを用いた実験プロトコルを確立した.すなわちマウスに,安定同位体(13C6)標識グルコースを投与し,その後マイクロウェーブによる酵素瞬時不活化により,脳の代謝を完全に停止させる. この後, 摘出した脳をメタボロミクス(技術課題①: 既知/未知グルコース代謝経路中の13C含有代謝産物の網羅的な同定/定量)と,イメージング質量分析(技術課題②: 13C含有代謝産物の局在イメージング)に供する一連の実験プロトコルを確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度から来年度半期(半年間)に実施予定であった,以下の3点の実験プロトコルを既に確立 した. I) 試料調整法の確立: 動物個体から破壊検査で代謝解析を行う鍵は,いかに迅速に動物個体の代謝を瞬時に停止させるかにある.すなわち,動物の死後,臓器摘出からの試料調整工程中に進行する死後酵素分解の抑制が必須であった.私達は,この問題についてマイクロウェーブによる酵素瞬時不活化により,脳の代謝を完全に停止させることで解決した.確立したプロトコルと多くの実証データを集積した. II) 安定同位体メタボロミクスの確立:(技術課題①) 本研究では, 投与13Cグルコース由来の13C含有化合物を網羅的に同定/定量する必要がある. まず, 分子網羅性が非常に高いキャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)を用い, 代謝物の網羅的計測を達成した. さらに取得した大容量データ群から効率よく13C含有化合物を検索するために,ソフトウェアによるデータアラインメント遂行の必要があった. これについ新たにnon-linear社ソフトウェアを適用し, 数十のサンプル測定データを一元的に比較定量することに成功し,13Cグルコース投与/非投与群のデータ比較により,13C含有化合物を効率的に抽出した. III) 安定同位体イメージング質量分析の確立:(技術課題②) さらにイメージング質量分析により,13C含有化合物の脳内局在をイメージングする. この際に技術的障壁となるのは,標的分子の絶対量の少なさに起因する感度不足であった.この点に関して,私達はイメージング質量分析の高感度化に資する複数の工夫を実施した. 具体的には, 組織上での化合物誘導体化法, タンデムMSイメージングの導入,そしてこの2つの複合的使用である.これらにより, 従来法では検出不可能であった13C含有化合物の脳内局在をイメージングする事に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降では,これまでに確立した実験プロトコルを用いて,脳内エネルギー代謝機構を可視化解析するために「マウスに対する光遺伝学的fMRI」と前述「代謝フラックス-イメージング」とを組み合わせた計測を行う. 具体的には, 光照射によって特定の神経細胞/アストロサイト-選択的に活動を操作できる遺伝子改変マウスを用い, 刺激時/安静時のグルコース代謝経路フラックスの, 光刺激依存的な空間的改変をイメージングにより解析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった安定同位体化合物を含む試薬類の一部が、メーカーの生産遅延があった為。
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次年度使用額の使用計画 |
購入予定であった安定同位体化合物を含む試薬類購入に使用する。
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