研究課題/領域番号 |
26560470
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研究機関 | 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所 |
研究代表者 |
船曳 和雄 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所, システムズ生物学部門, 研究副部長 (00301234)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | in vivo imaging / FRET / 細胞内情報伝達系 / キナーゼ / 大脳基底核 |
研究実績の概要 |
本研究は、PKA、ERKなどキナーゼの活性をCFP,YFP FRETバイオセンサーで計測し、さらにCaを波長の重なりがないRCaMPでモニターすることで、同一個体でのCa,キナーゼ同時イメージングを実現させるというものである。現在のところ、Cre依存的にRCaMPを発現させる事のできるfloxed-RCaMPを含むアデノ随伴ウイルスは作成し、これを用いて、線条体直接路投射ニューロンにCreを発現するマウス(D1-Cre)に打ち込むことで、直接路ニューロン特異的にRCaMPを発現させることに成功した。In vivoでのCa,キナーせ測定のための内視鏡画像取得システムのプログラムもほぼ完成している。また、lox-PKA, lox-ERKマウスとの掛け合わせにより、直接路、間接路投射ニューロン特異的にPKA,ERK FRETバイオセンサーを発現させることにも成功し、これらマウスを用いて、コカイン投与、電気ショックなどの忌避刺激に対する直接路、間接路投射ニューロンのPKA,ERK応答を計測し、背側線条体 直接路、間接路投射ニューロンが報酬、忌避入力に対してreciprocalなPKA、あるいはERK応答を示すことを明らかにした(Goto et al, submitted)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線条体投射ニューロンのPKA,ERKなどのキナーゼ応答を明らかにする方面の研究は極めて順調に進んでいる。具体的には、背側線条体投射ニューロンの報酬入力、忌避入力に対する応答を記録し、さらにより自然な報酬刺激としてのオスマウスの生殖行動(mating behavior)におけるPKA,ERK応答を計測することができた。オスの生殖行動に置いては、時に短時間に活動性が大きく変化するが、その生殖行動の変化すなわち行動の選択において、直接路、間接路投射ニューロンのPKA、ERKが強く関与していることを明らかにすることができた(Goto et al, submitted)。さらに、側坐核においては、従来から忌避記憶形成には間接路の情報伝達が重要であることが知られてきた(Hikita et al, 2010)が、具体的にPKAがどのように変化するのかについて不明であった。このため我々はinhibitory avoidance testを用いて、忌避記憶形成過程の側坐核直接路、間接路投射ニューロンのPKA応答を計測し、側坐核でのPKA応答は基本的には直接路、間接路の応答はreciprocalであるが、忌避刺激直後は直接路の不活性化が顕著で、間接路はほとんど変化しないなど、従来のドーパミン作動性ニューロンの発火応答(具体的には忌避刺激に対して、一過性の活動低下を示すというもの)に対する変化として予想されるものとは違う結果となっていた(Yamaguchi et al, in preparation)。各種行動におけるin vivoでのキナーせ活性変化の詳細な検討は従来の方法では行うことができないものであるので、上記の結果は新規性が極めて高い。
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今後の研究の推進方策 |
当初より予想していたことではあるが、Ca応答に関してはミリ秒単位で起こる速い現象であるため、分単位で起こるPKA,ERKなどのキナーゼ変化に比べて測定の難易度が高い。波形上観察されたRCaMPの蛍光変化が本当に活動変化を反映したものかを確認することが重要と感じた。このため我々は内視鏡先端部を金コートし、電気活動を記録したり、電気刺激したりできる電極として機能するように工夫し、現在麻酔下の動物に対してCaイメージングしながら局所電気活動とCa応答の関係、あるいは電気刺激に対するCa応答を計測しており、来年度にこれを自由行動下に行えるように改良する予定である。Ca,キナーゼの同時測定については、まず、in vitroで、局所の電気刺激、ドーパミン刺激に対するCa応答、キナーゼ応答を計測することを行うことで計測系の確立を行い、それをin vivoに応用する計画である。In vivoでは今までの実験から明らかとなっている、背側線条体間接路投射ニューロンの忌避入力に対する応答から始める予定である。背側線条体間接路投射ニューロンは忌避入力に対してPKAは比較的早く応答し、ERKはよりゆっくりと立ち上がり30分以上かけて上昇し続けるという結果を得ている(Goto et al, submitted)。PKAはドーパミン受容体、G蛋白を介して制御されるcAMPにより制御されているので、よりドーパミン入力を反映したもの、またERKはドーパミン入力とグルタミン酸入力の両方が入力した時に応答する’AND gate’機能を持っているものと思われてる(Girault, 2007)。Ca応答はよりグルタミン酸入力を反映したものと考えられるので、in vivoでCa,PKA,ERK応答を計測することで上記仮説を検証することができるものと考えている。
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