研究課題/領域番号 |
26570008
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
岡田 泰平 静岡大学, 情報学部, 准教授 (70585190)
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研究分担者 |
本庄 十喜 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (40584454)
佐々木 啓 茨城大学, 人文学部, 准教授 (50581807)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アジア太平洋戦争 / 戦争記憶 / フィリピン / 韓国 / 記憶の政治 / 茨城 / 北海道 |
研究実績の概要 |
フィリピン・日本・韓国を対象とし、具体的なモノや事件を対象とした戦争記憶の研究を行っている。特に平成15年度3月にマニラで行ったシンポジウムがそれぞれの研究の現時点を確認するものになった。端的には、①フィリピン地方で行われた凄惨な性犯罪とその責任主体であるビザヤ憲兵隊について、②茨城県水戸の予科練平和記念館およびその周辺の歴史記念館について、③北海道における最近の韓国への遺骨返還運動について、④朝鮮戦争の追悼について、⑤フィリピン児童文学における日本兵・日本占領期表象について。 全体的に一次資料や参考文献の収集・調査は進んでいる。特に①と⑤については今まで歴史研究ではほとんど使用されてこなかった資料を調査してきた。前者においてはフィリピンの地方での戦争犯罪行為を明らかにするためのBC級裁判資料と日本軍が行った行為についての記憶をたどるための全国憲友会連合会の会誌『憲友』、後者では出版事情が異なり古本市場が発達していないフィリピンにおいて、児童文学を収集してきた。 他方、②においては日本の地方行政と歴史の関わり、茨城における歴史認識を問い直すものになっている。③については運動の会誌を分析している。④については日本語では今まで総合的に紹介されることの少なかった、韓国内における朝鮮戦争の記憶の特徴を明らかにした。特に加害者処罰がなされない中での、国民和解という点が明らかになった。 今後は現在までの資料収集・調査を踏まえた、より広汎な問題への言及と理論面での考察が求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5名の構成員で「挑戦的萌芽研究」を行っており、なおかつ海外研究を含むので、当初の予定よりも研究の縮小は否めない。その中で、問題意識鋭く、具体事例に根ざした、さらには主流歴史批判にとどまらない、新しい方向の「記憶」研究へと展開している。またこの間、新たにフィリピン・アメリカ(中国研究)からの研究者とも交流することができ、より国際的な研究への一歩を踏み出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これらの実績があった上で、今後はより広汎な調査・考察が求められる。①については憲兵隊の戦後史という視点が必要である。②に関しては、予科練から特攻隊という流れをどう理解し、さらには中国侵略における重慶爆撃と中国人を中心とした茨城の観光化の整合性を視野に入れるべきであろう。③については北海道における追悼全般やアイヌの問題についての考察が求められる。④は二次文献は相当に集めてきたが、一次資料収集は遅れている。⑤についてはフィリピンにおける主流理解という点からの相対化が求められる。 さらには世界史的な視点に立った考察も求められよう。計画段階では、国民の歴史、民族の歴史に代表される「英雄物語」に対する「記憶の活動家」というグラックの視点に参照した。②の茨城からみると、この枠組みとは異なる歴史理解が展開しているし、④では「記憶の活動家」の主張が「英雄物語」に回収されていったことが示唆されている。つまり、これらのモノ・事象研究は、フィリピンや韓国という日本の侵略戦争に深く関わった社会において、グラックの枠組みを新展開する題材を提供しているので、今後はこの枠組みを展開させるべく考察を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に海外研究協力者を招へいした。当初招へい費用は当科研プロジェクトの予算に計上していたが、実際の費用は他の科学研究費から支払った。この招へいの一部が他の科研プロジェクトのシンポジウムへの参加だったからだ。静岡大学内の調達管理課は二つの科研プロジェクトを合同で行うことは好ましくないとの見解をしめした。そこで当該海岸研究協力者の調査内容等も調整し、招へいに係るすべての費用をもう一つの科研プロジェクトから支出した。 またマニラでのシンポジウムに関しては、一部費用を提携先のアテネオ・デ・マニラ大学が支払ってくれたため、出費が当初の予算を下回った。 これらの理由から37万円の未消化分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度も引き続き、代表者、研究分担者、協力者の個別の調査が行われる予定である。この内、協力者の一人は韓国での調査を行う。 また、9月には茨城での合同調査と研究発表会を予定している。研究発表会は、当研究プロジェクトの成果として、歴史関係学会の学会誌で特集を組むことができそうであり、そのための原稿を敲くことを目的としている。
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