研究の最終年度にあたる2016年4月から2017年3月において、2度の資料調査を実施した。研究初年度の2014年、2015年に続いて3度目にあたる。8月末から1週間、連合王国首都ロンドンのロンドン大学英連邦研究所にて、また2月中旬から10日間、英連邦ドミニカ首都ロゾーの国立公文書館を中心とした調査である。 ロンドンでは、西インド連邦(1958-62)の女性閣僚でただ一人の英系白人(クリオール)であったフィリス・オーフリーが、連邦崩壊後、故郷のドミニカで発行した新聞『ドミニカ・スター』の70年代から80年代までの、とくに「独立」に関する記事を中心に探索した。またドミニカでは、今回は特別に、西インド大学ドミニカ・オープンキャンパス図書室の計らいで、西インドとドミニカにおけるジェンダー論に関する二次文献を閲覧・複写することができた。70年代末から高揚するカリブ海域におけるジェンダー論との関連で、オーフリーの「独立」への理念をさらに詳細に読み解くことが可能になったと考える。次期の研究へのつながりが鮮明になったことは大きな収穫となった。 最終年度に刊行された論文(査読付き)は一本で、同じくドミニカ出身のクリオール女性として、作家ジーン・リースが、本国イギリスにおけるフェミニズムをどのように理解し、批判したかを、1920年代に発表された作品と女性参政権運動末期の動向を報じた『タイムズ』紙などをもとに明らかにした。口頭発表は、大阪大学文学部比較文学研究室との合同で、「クリオール女性の移動と自己認識の変化」について、オーフリー、リースの故郷と本国との間を移動する間に醸成された「西インド人」としての自己認識、本国の植民地主義に対する認識の深まり、脱植民地へと向かう故郷の人々との齟齬などについて報告を行った。
|