最終年度の主たる成果は、文献調査・実地調査と資料収集、未発見資料の発掘がある。具体的には、前年度に続き『申報』の電子データベースを対象に「友声旅行団」を中心とする中華民国期のマスツーリズムを推進した旅行団体に関する文献調査に加え、夏季休業期間中に上海図書館及び上海市档案館等において前年度の補充調査を実施した。 特に、今回新たに台北で文献調査を行うことができたことは大きい。台北では、民国期中国のツーリズムの中核をになった中国旅行社の実質的な親会社である上海商業儲蓄銀行の「行史館」を参観し、情報収集を行うことができた。さらに台湾大学図書館等で文献調査を実施し、その結果、特に中国旅行社の戦後における台湾での活動の展開について従来ベールに包まれたままであった未発見資料を多数発掘することができたことは特筆に値する成果である。こうして収集のなった資料について調査分析を行った結果は、中間報告的に中国文学文化研究者の研究集会にて口頭発表を行った。今後(平成28年度中に)論文にまとめ、著書(共著)として成果発表を行う予定である。 研究期間全体を通じての主たる成果としては、(1)『申報』所載の「中国旅行社」「友声旅行団」「良友全国撮影旅行団」等の旅行社・旅行団体の関連記事の目録を作成できたこと、(2)友声旅行団の機関誌『友声』(上海図書館館蔵分の1923年1期~37年21巻4期;欠号多数)の記事目録を作成できたことがある。(3)理論的な進展としては、従来ほぼ全く注目されてこなかった「倹徳儲蓄会」の旅行活動の重要性が浮上したことが挙げられる。これは近代的大衆観光の嚆矢とされる英国トマス・クック社にも通じる、倫理道徳と旅行娯楽との一見奇妙な結びつきを示唆する事例であり、今後さらなる調査研究を進め、近代という時代におけるマスツーリズム流行の意味を問い直し、その歴史文化的構造を解明していく予定である。
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