研究課題/領域番号 |
26580012
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研究機関 | 沖縄大学 |
研究代表者 |
須藤 義人 沖縄大学, 人文学部, 准教授 (00369208)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 死生観 / 龕屋御願 / 風葬 / 洗骨 / 沖縄本島 / 葬送儀礼 |
研究実績の概要 |
2014年度は葬送儀礼の中でも、「龕屋御願」(ガンヤウガン)の研究調査に絞って行った。「死者=祖霊」という概念があり、信仰的な祭祀であると推測できる。豊見城市饒波では「ガンゴウ祭」、八重瀬町東風平の小城では「ガンウガン」を毎年旧暦8月9日に行っている。高安では、ガンを担いで門中墓を回る行事が8月から10月にかけて開催され、集落によって時期が大幅に違うことも判明した。 その他の調査事例は次のとおりである。 中城村津覇区は9年に一度、旧暦9月9日(ガンヤウガン)/豊見城市高安地区は12年に一度、辰年に旧暦8月9日(ガンゴウ祭)/東風平町当銘・小城は毎年、旧暦8月9日(ガンコウ祭)/中城村津覇区は9年に一度、旧暦9月9日(ガンヤウガン)/うるま市南風原は12年に一度、子年・旧暦9月9日(ガンヤウガン)/うるま市勝連浜は12年に一度、亥年・旧暦9月9日(ガンヤウガン) 以上を踏まえると、旧暦8月9日に、ガンに関わる行事を行っているところが多いことが分かる。一部は旧暦9月9日に行われる。大抵の場合、「龕屋」(ガンヤー)からガンを出して、道ジュネーをして、お披露目して奉納芸能をする。数年に一度に行われるのは、その際に、綺麗に修復して維持するという役割もあると考えられる。ガンに宿る霊を慰め鎮めて、字民の無病息災を願うパターンが多い。この儀礼は、沖縄本島では「ガンヤウガン」「ガンゴウ祭」などと呼ばれている。また、「ガンヌユーエー」に関しては資料が少ないが、本調査を踏まえれば、「龕屋御願」の変形版であると結論付けてもよかろう。 1970年代まで、沖縄本島でも洗骨を野ざらしで行う慣習が強く残っていた。時代の推移によって、墓地のあり方が変遷しているが、もともとは洗骨をしたり、ガンで死者を送る墓所であった。2000年代以降になって、これらの儀礼が残っている地域は、沖縄本島においては確認できない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は沖縄本島内の事例研究と祭祀調査、現地での資料収集と分析に集中した。死者の儀礼に関しては、沖縄戦犠牲者の供養に関する研究にも重要性が増しており、近現代史を踏まえた視野も不可欠となっており、その分野の研究は他の研究資金を充当して研究を進めた。その成果は「沖縄戦後70年における〈死者からの聴き取り〉の方法論の構築」というタイトルで報告書も発行している。 久高島、宮古島、粟国島に関しては、集落と墓地の形態に関する基礎調査、葬制と他界観に関する聞き取り調査、および関連祭祀およびシャーマニズムに関する調査は事前に行っており、フィールドノートの作成と記録映像の分析を始めている。 久高島では2003年の野辺送り、2010年の洗骨の実施を確認しており、粟国島では地域住民による葬制・墓制に関する手書きの郷土資料を発掘している。また、「宮古の神と森を守る会」での活動等に参画して、宮古島をフィールドにシャーマニズムの観点から沖縄の死生観および関連祭祀・葬制について研究してきたこともあり、その収集資料の分析を進めている。 さらには、人生儀礼の一環としての弔いおよび関連祭祀・儀礼を、映像記録『久高島の年中行事1・2』(企画・制作、南城市育教委員会委託事業)、ドキュメンタリー映画『久高オデッセイ』(助監督)、『古宇利島 神々の祭り』(企画・制作)に記録しているので、そのフーテージの映像分析も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、映像資料のアーカイブスと、新たな映像資料の収集のために機材環境を整えていく。また、沖縄本島以外の対象地域である離島に重点を移し、宮古諸島・八重山諸島・奄美諸島の調査研究を展開していきたい。 八重山地域における旧盆調査、葬制・墓制、および他界観に関する悉皆調査、そして宮古地域における葬制・墓制、および他界観に関する悉皆調査において、沖縄本島の事例との比較研究を進める。また、奄美諸島における葬送習俗に対する意識調査、与那国島の「ジュルクニチ」における葬送文化の実地調査も試行する。 さらには、6月23日の「慰霊の日」に慰霊祭に出席する遺族に協力していただき、糸満市各地の慰霊碑の関係者に聴き取り調査をする。肉親である戦争犠牲者に対して、葬送儀礼の中で如何に鎮魂しているかを分析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度は沖縄本島内の事例研究と儀礼調査、事前の資料収集の分析に集中したため、予算執行が特に無かった。 また死者の儀礼に関しては、沖縄戦犠牲者の鎮魂の研究も重要性が増しており、近現代史を踏まえた視野も不可欠となっている。その分野の研究は他の研究資金(対米請求権協会助成事業)を充当して研究を進めたので、支出が無かった。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画としては、映像資料のアーカイブスと新たな映像資料の収集のために、初年度に購入予定であったビデオカメラや、過去のHDV映像を分析するための機材に充てたい。 またフィールド調査に関しては、初年度は沖縄本島に重点を置き、事前調査の資料分析に労力を費やしてきた。次年度からは、調査対象を沖縄本島以外の離島地域に軸を移す予定である。宮古諸島・八重山諸島・奄美諸島の調査活動を展開するために、初年度の調査旅費枠を活用しつつ、効率化を図るために研究協力者の助力を得つつ、綿密なフィールドワークを実施していきたい。
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