本研究の最終年度の取り組みは、演奏に関連する障害(PRMDs)の発生に強く係わっているとされるピアノのオクターブの打鍵前後の筋活動を、視覚的バイオフィードバックにより低減させることを目的にした。PRMDsは、掌の小さい者が不利とされることから、日本人女性ピアニストの障害発生を未然に防ぐ為の一つの方策として期待される。 実験参加者は、ピアノ専攻学部生および大学院生16名とし、彼らは、筋電波形を観察しないで右手によるフォルティシモの強さのオクターブ打鍵を行い、次にそれをリアルタイムで観察しながら打鍵前後の各筋群の発火レベルを意識しながら低下させる打鍵を行った。オクターブは、親指と小指で 8度とより困難な9度の2種類とした。さらに、データの正規化の為に5度の打鍵も測定した。結果は、フィードバックの有意な効果は9度の母子外転筋(-58.6%)のみにしか認められなかった一方で、僧帽筋と三角筋を除いた上腕と前腕の全ての筋で打鍵後の筋活動が打鍵前のそれよりも有意に低下していた。バイオフィードバックの顕著な効果は、限定的であることが示された。全ての条件において腕から先の筋群が打鍵後には筋活動を低下させていることから、今回の実験参加者は発音には関係無い無駄な筋活動を速やかに低下させる高度な技能が発達していることが示された。この能力がフィードバックによる効果を修飾している可能性が考えられる。したがって、本取り組みは、演奏技能が未発達の児童または生徒を対象とすれば効果的である可能性が示唆された。平成28年度の成果は、第21回 European College of Sports Science、第67回日本体育学会大会、第71回日本体力医学会大会、第15回発育発達学会大会で公表し、第24回 看護人間工学部会研究発表会に招聘され特別講演(看護人間工学研究誌,第17巻,1-6,2016)を行った。
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