①ラジオ番組『幼児の時間』の月刊番組テキスト『ラジオえほん』(昭和24年10月~昭和26年1月)に2曲ずつ掲載されている新作童謡(全30曲)の楽曲分析を行い、戦前の大正童謡との比較を通して、戦後の新しい幼児のうたに見られる音楽的特徴を明らかにした。全30曲のうち、音階に注目すると7音を使用した音階が10曲(33%)を占め、大正期の童謡に多く使われたヨナ抜き音階は4割程度にとどまっていることから、同時代の他の子ども向け番組『子供の時代』で放送されていた童謡(大正童謡やレコード童謡)と比較した際、明らかにそれらとは異なる作品が取り上げられていたことが分かった。また、楽曲の作曲家についても團伊玖磨、芥川也寸志をはじめ、ろばの会による新進作曲家らによる作品が散見され、その特徴としてとりわけ伴奏には多様な和声の使用や細かい演奏指示など、それまでの童謡作品とは一線を画した音楽様式が次々と発表されたことが明らかとなった。さらに、『幼児の時間』で取り上げた童謡は、レコード会社の専属歌手など豆歌手と呼ばれた当時の売れっ子 子ども歌手ではなく、東京芸大出身の大人の声楽家によって歌われ、歌唱指導されていたことも、『子供の時間』とは異なる大きな特徴であった。
②日本で放送されたラジオ番組『子供の時間』は、1928年から1945年まで台湾でも放送されていたことが、台湾の音楽学研究者の研究によって明らかになった。同番組は台北放送局、台中放送局、台南放送局で放送され、音楽プログラムには唱歌、洋樂、和樂、「うたのおけいこ」など歌唱指導も散見される。レコードの音源は、日本の大正期の童謡やレコード童謡等、日本で放送されていた内容とほぼ同様であるが、とりわけ興味深いのは、現地の幼稚園園児や小学校の児童たちが出演し、日本の童謡を歌っていたことである。今後は台湾研究者との交流を深め共同研究を行う予定である。
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