本研究は第一次大戦時のフランスの美術史家の言動を調査し、国内の愛国的言説と対外的文化工作がいかに戦後のフランスでの美術史編纂に影響を及ぼしたかを明示することを目的とした。当地では戦前まで、教会美術、王統派美術、共和派美術が、政治的党派を超え一貫した美術史認識を得ることができずにいたが、この対外戦争はフランス美術史家にとって国内の文化遺産を統括的に自国のものと認識し、保護する追い風となる。戦時の文化工作は非常時の一時的とみなされるが、戦後の美術史編纂理念(普遍主義、国際主義、人文主義)には戦時の言説が影を落としている。大戦間の美術史理念は国際的スタンダードとなるが起源は戦前の戦闘的言説にある。
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