日本の敗戦後の美術史について「戦後美術史」として一続きの括りがあるが、サンフランシスコ講和条約が結ばれ発効する1952年まで占領下にあったという事実が看過されているきらいがある。本研究では、その問題について、日本に限定されることなく、国際的な視野において、日本と同様な条件下に置かれた面のあるドイツを比較対象とすることで、より深く、広く美術現象を把握することを目指すものである。 本年度は最終年度であるため、当初から予定されたように、国際的な研究会を実施した。専門的な知見のある研究者どうしの濃密な意見交換を目指して2回行った。まず10月2日、戦争によって植民地支配から解放されたものの、やがて戦火にさらされた朝鮮半島における米国の施政下の美術制作と活動について、韓国から招へいした申政勳(韓国国立芸術研究所)が、占領下の日本と共通する状態について報告を行い、さらに連携研究者である安松みゆきが最新の調査成果を含めて戦後のミュンヘン「芸術の家」の事業について、また江口みなみが戦前から活動した美術館員ライデマイスターの履歴について発表した。討論には、このほか、川崎賢子(日本映画大学)と大谷省吾(東京国立近代美術館)がそれぞれ質疑応答に基づいてコメントを付した。2回目の研究会は、10月29日、30日に催され、バート・ウィンザー(カリフォルニア大学アーヴァイン校)を招いて、研究代表者による戦後70年を記念する展覧会企画の意義について、ついで桑原規子(聖徳大学)による戦後の米陸軍の教育センター等における展覧会企画をはじめとする山田智三郎と在日欧米人との関わりについての発表に基づいて、連携研究者を交えて、戦後日本美術が置かれた状況についての認識を深めた。 本研究の最終的なまとめとして、申、桑原、五十殿、安松、江口による、上の研究会での討論を反映した論文を掲載した研究報告書を公刊した。
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