研究課題/領域番号 |
26580028
|
研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
麻生 弥希 東京藝術大学, 社会連携センター, 研究員 (90401504)
|
研究分担者 |
並木 秀俊 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (00535461)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ポジフィルムの活用 / 曲面に描かれた壁画 / 3D展開図 / 法隆寺金堂壁画 螺髪 / 古典絵画の線描抽出 |
研究実績の概要 |
平成27年度はまず、優先的に取り組むべき研究項目について検討した。 東京藝術大学COI拠点では、1970年代に京都大学の調査団により撮影されたフィルムからバーミヤン東大仏仏龕天井壁画を復元するプロジェクトが進行している。本プロジェクトから、デジタルとアナログのハイブリッドによる古典絵画の復元を実現されるには、次の手法を確立する必要があることが分かった。1) 変色した画像資料をデジタル技術で補正する手法、2) 歪んだ画像資料をデジタル技術で補正する手法、3) 補正したデジタル画像を対象(例えば仏龕)にフィットするよう編集する手法。さらに、100%正しいオリジナル画像は現存していないため、これらのデジタル技術による補正は、画家の経験(アナログ技術)に基づいて行う必要があることも分かってきた。そこで本年度は、上記手法の確立に向け、既存の機材やソフト、画家の経験などを組み合わせ、過去に撮影されたフィルムを活用し、曲面に描かれた巨大壁画を復元するプロセス(フィルムの高精細スキャン、変色の補正、画像の歪み補正、画像合成、出力後の手彩色、再デジタル化、3D展開図の作成、展開図に合わせた画像合成、原寸大拡大、再出力)を構築した。 さらに、法隆寺金堂壁画6号壁の画像解析により、頭部に螺髪が描かれていた痕跡を確認することができた。該当作品は昭和10年に便利堂によりコロタイプ分版撮影によるカラー写真が残されている。頭部は目視では黒一色に見えるが画像を分版してみるとかすかに螺髪の痕跡を確認することができた。古典絵画の知識を有するものがデジタル画像を熟視し編集する過程で今回の発見に至ったことは意義深いと考える。 仏画の線描抽出については、平成26年度に引き続き研究を継続しているが、デジタル上で線描を抽出する作業は当初の予想よりも時間がかかり難航している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では法隆寺金堂壁画の復元を実施する予定だったが、バーミヤン東大仏仏龕天井壁画の復元プロジェクトを通じ、画像合成に関わる研究項目が新たに抽出されたため、こちらを優先して取り組んだ。結果として、変色した貴重なポジフィルムの活用と3Dの形状に合わせた画像合成という、古典絵画を復元する上で実践的なプロセスを構築することができた。 したがって、当初予定とは実施内容が異なるものの、古典絵画の復元を目的とした本研究としては順調な進捗であった。 また法隆寺金堂壁画の画像を熟視する過程で6号壁に螺髪の痕跡を確認できたことは大変意義深く、古典絵画の研究者がデジタル画像編集技術を習得することの意義を再認識することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究は可逆的な時間軸における復元研究の考察を行う予定である。復元研究の多くは非可逆的な時間軸のどの段階であるかを問われるケースが多い。例えば制作当初の復元であるとか、歴史上どの段階の資料を元に復元したものであるかを明記することが根拠の高い復元であるという認識が一般的である。 しかし人類の時間の概念の歴史には可逆的な時間が存在しており、時間は始めと終わりの一直線ではなく、早く流れたり、遅く流れたり、創造と破壊を有機的に繰り返すものと捉えられて来た歴史がある。美術においてもピカソは複数の視点を同一画面に存在させることで新しい芸術を創造したが、復元研究においてもこのような思想を取り入れることはより魅力的な復元図の制作が可能となると考える。 デジタルとアナログを融合させた復元研究では複数の時点を融合させた復元が手描きの模写と比較して制作することが容易であり、本研究代表者は所属機関においてこれまでもこうした復元を実践してきた。その過程で可逆的な時間軸に則った復元はまだ一般的に浸透しておらず、技術開発に加えて概念の形成も重要であると感じたことから研究を進めることにした。 対象作品は法隆寺金堂壁画6号壁とする。6号壁は絵画に残された痕跡から更に復元を進めることが可能な部分があり、画面上でその部分のみ時間軸を巻き戻して復元を行うことを試みる。 加えて線描抽出の研究とこれまでの研究成果をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度はバーミヤン東大仏仏龕天井壁画の画像復元が主要な研究となった。現地での調査は難しく旅費が当初の予定より少なかったため次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は法隆寺の源流となった敦煌の調査を行う予定である。敦煌莫高窟第57窟南壁は法隆寺金堂壁画との類似点を指摘される作品の一つである。主尊の顔貌の損傷は著しいが頭部の保存状態は良く螺髪の描写などを中心に調査を行う予定である。
|