平成29年度は本研究の仕上げとして、これまで行ってきたデジタルとアナログを融合させた古典絵画復元の精度を更に上げるために、絵画復元における層構造の見直しを行った。 これまで本研究代表者が携わった絵画復元の構造は1:基底材、2:白色顔料による絵画の質感、3:高精細印刷、4:天然顔料による補彩という構造が主要なものであった。 これまでの構造は壁画などの比較的表面に凹凸がある作品や、すでに破壊されオリジナルが存在しない作品を、残された資料を元に復元する際に解像度が十分でない画質を古典絵画技法を習得した人材によって補う必要がある復元研究には適した構造であった。 しかし、作品が現存し、最新の撮影技術によって高精細撮影が可能な作品においては最上層部に補彩を行うことが画像の品質を損なう可能性もあることが次第に分かってきた。特に作品の劣化や変色が少ない近代以降の作品にその傾向が見られる。この問題を回避するために、天然顔料による補彩の工程を省略すると、印刷のみでは天然顔料の発色は表現しきれないという根本的な問題に直面する。 そこで絵画復元の構造を1:基底材、2:白色顔料による絵画の質感、3:天然顔料、4:高精細印刷、5:補彩及び、金属材料などによる装飾として、従来の構造に改良を加えたところ天然顔料の発色に高精細印刷による絵画の繊細な表情を併せ持った復元が可能になることが分かった。 本研究はデジタルとアナログを融合し、様々な作品の復元に応用可能な手法を開発することにある。平成29年度は発表には至らなかったが、新たに改良を加えた絵画復元の層構造はこれまで培ってきた技術の集大成であり、東京藝術大学において現在進められている復元においても活用されている。今後多くの作品に応用可能な復元手法を開発することができたことから本研究は古典絵画復元の現場において役立つ研究となったと考える。
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