最終年度には、前年度に着手した旧満州の留用日本人の調査と研究を継続し、その中間報告としてUCLA(アメリカ合州国)で開催されたTrans Pacific Workshopで、調査完了している事項について報告を行い、ペーパーとしてまとめた。このペーパーは現在準備を進めている黒竜江省鶴崗の炭砿施設で日本人留用者が刊行していた雑誌『ツルオカ』の解説文に組み込まれる予定である。この他、この主題については大阪大学・神戸大学の研究者と研究会を開いて情報交換を行った。さらに最終年度の2月に北京を再訪し、『ツルオカ』関係者への追加的な聞取りを行った。2016年と17年の二度にわたったこの聞取りはテープ起しを進めており、いずれ資料として復刻版に組み入れられる予定である。 また日系移民の強制収容所内での文芸活動についての研究は、その時代に先行する日系移民一世の詩人たちの活動について研究を行い、加えて米国の戦時下の特務機関OSS(Office of Strategic Services)で活動したジャーナリスト詩人の活動についても調査を行い、それらの成果は『現代詩手帖』に連載している「二十世紀日本語詩を思い出す」の論考として発表した。 研究期間を通じて、国内のサークル詩や民衆芸術運動についての従来の研究を継続発展させることにまして、これら〈外地〉での、とくに戦争の時代が日本人や東アジアの人々に強いることになった留用や強制収容などの、特殊な環境の中での民衆芸術運動に研究が発展することになった。このことは戦後の文化運動を一国主義的な狭い視野から解き放って、より国際的な視野から捉え返す作業としての意義を持つと考えている
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