本研究の目的は、田辺尚雄が1922年に実施した「沖縄・八重山諸島音楽現地調査」を起点として、近代沖縄における録音・レコード音楽の成立を明らかにすることである。平成27年度は(1)(2)を実施した。 (1)平成26年度に実施した沖縄県立芸術大学附属図書館「田辺文庫」調査に基づき、平成27年11月に東洋音楽学会で口頭発表を行った。本発表では沖縄調査に関する記録を時系列に整理するのみならず、田辺文庫の資料と照合させ、受け入れ側と調査する側、双方の意図と成果も読み解いた。結論として、以下2点が明らかになった。第1に、沖縄側で準備に携わった人々が企画した演奏会、歓迎会をそのまま受け入れる形で調査は進められた。田辺の研究者としての責務と、〈外向き〉に音楽を発信する機会を得た沖縄の研究者の目論みが複雑に絡み合いながら調査が実施された。結果的に、東京という中央に音楽を発信する新たな志向が沖縄社会に導入され、田辺の沖縄調査は〈外向き〉発信スタイルの起点として位置づけられる。第2に、田辺は調査の目的であった八重山民謡を聴き、録音、採譜し、講演会で音源を披露した。1926年日東蓄音器からプライベート盤として制作された八重山民謡レコード23枚が田辺における八重山民謡研究の完成版だと位置づけられる。 (2)京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター「田邊氏寄贈コレクション」を調査した。田辺が沖縄調査で入手した楽器、レコード、文献、使用した蓄音器が所蔵されており、諸資料の写真撮影を実施した。(1)の研究成果と照合することにより、調査の全体像がより明確になると考えている。 なお、「田辺文庫」レコード音源のデジタル化は沖縄県立芸術大学の企画で実施されたため、今後本研究に活用する。また、石垣市立八重山博物館「喜舎場永珣コレクション」は公開のための資料整理が完了しておらず、調査は実現できなかった。
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