本研究の目的は、日本における民族音楽研究のパイオニア・田辺尚雄が1922年に実施した「沖縄・八重山諸島音楽現地調査」について、沖縄で準備に奔走した人々や田辺が残した記録を分析し、調査の全体像を明らかにすることにある。沖縄県立芸術大学附属図書館「田辺文庫」には、沖縄調査に関する文献、楽譜、レコード等が所蔵されている。田辺の著書『南洋・台湾・沖縄音楽紀行』と田辺文庫の資料を照合し、受け入れ側と調査する側、双方の意図と成果を読み解いた。その結果、調査は田辺の研究者としての責務と、日本本土、つまり〈外向き〉に音楽を発信する機会を得た沖縄の研究者の目論みが複雑に絡み合いながら実施されていた。
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