研究課題/領域番号 |
26580039
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
菊地 武彦 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (20407779)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 岩絵の具 / スラグ / 産業マテリアル / 日本画 |
研究実績の概要 |
日本画で使用される天然岩絵の具は、人工の新岩絵の具と異なり、独特の深みのある色を表現できる。しかし、天然岩絵の具はどれも高価であり、その制作には高額な費用がかかる。また、原料の産出国の政治、治安事情、国内の職人の高齢化などによって色材の安定供給に不安があり、中には廃盤となる色が出てくるといった問題が生じている。そこで岩絵の具を安価で安定的に供給する方法として、産業マテリアル(金属・セラミック)に注目した。 本研究では、「①安価で大量に供給されている産業マテリアルを絵の具として転用」、「②産業マテリアルが生み出される過程で発生する二次生成物(廃棄物)の絵の具への再生」を試み、実際に絵画制作に使用し、発表を行う。そして、多くの人々にこれらの材料の持つ可能性を知ってもらい、絵画表現における表現手法の発展の一躍となる手段の確立を目指していく。これらは、天然色材に重点を置いた旧来の価値観を変え、材料的にも思想的にも現代の社会と密接に関わりを持っていくことになり、日本画が現代の美術として生き残っていく為に、重要であると考える。 平成27年度の研究内容は、岩絵の具製造業者や画材店主などの専門家へのインタビュー、試料の成分分析および直射日光に1年間曝しての被曝試験、粒状性検査、ペーハー検査などである。また試料を日本画の学生に配布し、その色味や使用感などをアンケート調査した。その中から特に好感触を得た数名の学生に引き続き資料を提供し、再び長期使用のアンケートをとる予定である。また自分の制作においても重点的にこれらの試料を使っていく予定でいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はおおむね順調に進んでいる。平成27年度はさらに一歩進めて、入手した試料の成分分析を市販の岩絵の具と合わせておこなった。分析の結果は平成28年度発表予定であるが、ほとんどの試料は安全に使えることがわかった。天然岩絵の具の中にはヒ素などの毒物が含まれているものもあり、また新岩絵の具が鉛を含んでおり、有毒で海外に輸出できないことを考えると、入手した試料には絵具としての可能性が大きいことを感じた。 あわせておこなったことは資料をパネルに塗っての被曝試験である。6月から成果発表の展示まで約一年、このパネルを直射日光に曝してどれだけ変色するか、劣化するかを観察している。また顕微鏡で試料の粒状性を写真に収めた。さらに試料を入手してから時間をおいてのPHテストも加えておこなった。 ほかには、多摩美術大学の日本画研究室に協力してもらい、資料のサンプルを日本画を専攻する学生に配った。10数種類、40試料ほどを配付したうえで、後日使用感のアンケートを回収して試料の使い心地の調査をおこなった。配付した試料の使用感はおおむね好評であった。 専門家へのアンケート調査もおこなった。画材製造業の技術者、日本画専門店の店主などに資料を持参し、インタビューをおこなった。 さらに1年を通しておこなったことは、これらの試料を使っての絵画制作である。これらの画材が使えるか否かは画家の個人的な感性によるところが大きい。実感を知るためにまず使ってみることが大切である。平成27年度はこれらの試料を使った作品群を自分の個展に出品してみた。鑑賞者からは新しい岩絵の具について、個性的で今までに無い色と輝きを持っているという感想をいただいた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には引き続き試料を提供し、画家、学生に使用してもらうことでこれらの材料を認知してもらう。提供の仕方は今までと違い、画面に大量に使用する可能性のある制作者に重点的に配付してゆく。 さらにこれらの試料を使った作品の制作、および使用感等をまとめて制作発表をおこなう予定である。さらに研究成果をまとめた報告書の作成もおこなう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に必要な試料を当初の予定より安価に購入することができ、研究費を効率よく使用できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は研究のまとめの年であることから画廊の賃貸、デザイン料、印刷費等昨年度までとは違った支出が増える。残金は主に資料の購入と印刷費に使用予定。
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