産業マテリアルやスラグは様々な分野に流通しているが、産業廃棄物として厄介者扱いされている面を持つ。しかし違う観点からアプローチすれば新たな価値を引き出せる可能性が考えられる。本研究ではスラグや産業マテリアルによる岩絵の具への応用及び画家にとっての表現手法の拡大を目指した。 研究は産業マテリアル、スラグの試料収集、集めた試料と既存の岩絵の具の成分分析、ペーハーテスト、比重検査、粒度範囲および顕微鏡による粒状性調査、1年間を通しての被曝テストをおこなった。また日本画科の学生に協力してもらい、試料を提供し、その使用感のアンケート調査をおこなった。 試料を提供した学生のうち何人かは、柔軟な考え方で下地材に練り込むなど新しい使い方も試みてくれた。にかわとの相性も良いという意見が大半を占めた。中にはヘビーユーザーも現れ、作品の中の重要な要素として活用してくれた学生もいた。絵具には個人的な好みの要素が大きく関わってくるので一概にその善し悪しは言えない面もあるが、今回提供した試料の内いくつかは、十分に岩絵具としての実用に耐えるものであったと確信することができた。 問題点としてはほとんどの試料において硬度が高いことがあげられる。このことで個人での番丁の調整が困難であることと、従来の岩絵の具に比べて筆が痛みやすいという難点が指摘できる。 実際にこれらの材料がどれだけ岩絵具として使用できる可能性があるかは、展示発表によって明らかにした。2016年11月21日(月)から12月3日(土)まで開催された東邦アートでの展示で各作家が素材の可能性を発揮させ、作品の中で材料を効果的に使用してくれた。展示に参加したメンバーは、菊地武彦、武田州左、千々岩修、長谷川幾与、宮ヶ丁渡、青木香保里、山嵜雷蔵である。
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