研究課題/領域番号 |
26580045
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 信博 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 助教 (90345843)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 動植物の擬人化 / 百鬼夜行絵巻 / 水陸斎の思想 / 草木国土悉皆成仏思想 / 付喪神 |
研究実績の概要 |
本研究は、絵巻・物語絵に描かれる動植物・食物の擬人化を対象とし、先行研究が少ない『掲鉢図』や宗教儀礼である水陸斎の中国的思想が日本の絵巻・絵物語へ与えた影響を調査・考究することを目的としている。 2014年度は、概ね以下の調査を行った。 1.フランスのギメ美術館蔵「水陸斎」図・『掲鉢図』 2.京都国立博物館蔵『掲鉢図』(狩野探幽模写) 3.東京国立博物館蔵『百鬼夜行図』(狩野探幽 模者不詳)・『百鬼夜行図』(異本) 4.京都市立芸術大学蔵『百鬼夜行図』(異本) 1のギメ美術館蔵『掲鉢図』に関しては、1904年に記された研究誌「Legende de Kouei tseu mou chou, Annales」では、絵巻の中に全部で4点の後書きがあると指摘されているが、現在は1点しか残っていないことが確認された。また、同絵巻が明代末期の細密な模写であることも、学芸員と意見が一致した。その点、2の京都国立博物館蔵『掲鉢図』には描かれていない擬人化された動物が現れることも、比較し確認した。 一方、3の東京国立博物館蔵『百鬼夜行図』2点は、どちらも江戸初期の作品を江戸後期に模写したものである。行列は左方面に動く形が本来の姿であるが、『百鬼夜行図』(異本)は逆向きであることが確認された。また、4の京都市立芸術大学蔵『百鬼夜行図』と対照すると、が擬人化された動物・植物に差異は少ないが、東博本が瓢箪の擬人化とするものには、蕪が擬人化されている。この点、同様の異本であるスペンサー本もやはり蕪が擬人化されている。 現在、詞書を持つスペンサー本の翻刻・釈文を行っているが、内容は擬人化された動植物が地獄に落ち、苦しむ内容である。その意味では、異本『是害坊絵巻』(慶應大学、ホノルル大学、野村美術館蔵本)の詞書の内容と酷似しており、現在詳細な比較を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した調査のうち、フランスおよび日本でのものに関しては、予想以上に順調に進展した。しかし、韓国や中国での調査がまだ進展しておらず、次年度以降となる。さらに、計画した植物の擬人化を促進させた「草木国土悉皆成仏」思想と『掲鉢図』や『水陸斎図』を宗教儀礼時に掲げる水陸斎思想との関連性の分析も大幅に進展しているとはいえない。 一方、詞書を持つスペンサーコレクション蔵「百鬼夜行絵巻」の翻刻により、異本『是害坊絵巻』(植物や道具を持つ天狗を描く)の画中詞との近似性やその内容が「草木国土悉皆成仏」思想と深い関わりを持つ可能性があることが分かり、その点では、大いに研究が進んだといえる。 また、この研究は、『掲鉢図』や『水陸斎図』に描かれる道具類を援用し、「祭礼図」や「風流」を描く新たな風俗画や絵物語の創出が行われた事実を明らかにすることを目指しているが、異本『是害坊絵巻』の画中詞には「はやし物」、「撥」、「太鼓」などの道具類、「熟柿」、「大根」、「瓢箪」などの植物が現れる。そして、絵には「楓」、「笹」、「桜」、「柳」など四方四季を表す植物が配置されている。このことから、この絵巻が祭礼との関係の中で描かれていること、そのような道具が「百鬼夜行絵巻」の中で使われていることから、双方が同じ意図で描かれている可能性が高いことが判明した。さらに、スペンサー本「百鬼夜行絵巻」の詞書から、地獄に落ちた百鬼が同様の祭礼を行っていること、同時代に作られた『六条葵上物語』や『月林草』にも同様の植物が地獄に落ち、救いを求める表現が多数あることから、これらが同一系統の思想から生まれていることも明らかとなった。 なお、現在までの研究は2015年3月21日に「絵ものがたりにおける宗教と擬人化」(於:西尾市岩瀬文庫 地階研修ホール)として、報告会も行った。この点も研究計画通りであり、概ね研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は前年度の調査および検討・分析を踏まえ、理論を構築する。また、文学的な変化過程をテクストや儀礼との位相を検討することで、統合する。加えて、最終年度に向けて進行状況の再確認を行い、調査結果の分析、理論上の矛盾点などから、研究資料の不足点を補う調査を行う予定である。特に水陸斎の儀式書として、志磐『法界聖凡水陸勝会修斎儀軌』などを通じて、施食法や水陸斎儀礼などの方法論の分析、実質的な儀式の分析を宝寧寺関係資料で行い、また、日本での残存資料の検討も行う。 海外調査では、中国にて、宝寧寺蔵であった「水陸斎図」および水陸斎資料関係調査、韓国で施餓鬼図などの調査(津寬寺、大興寺、仙巌寺、奉恩寺など)を中心に行い、フランス・ギメ美術館でも関係資料の調査を行う。国内では、宮内庁蔵『法界聖凡水陸勝会修斎儀軌』、水陸斎儀礼書調査を中心に据える。 そして、資料を思想、歴史的背景、儀礼、模写の時代別変化および受容から分類、絵巻全体の構造について、その表象性、模写の違いによる新たな物語として再構築されているかかなどを検討する。さらに、描かれる画が何を擬人化しているかの同定作業を通して、水陸画のモチーフがどのような歴史的受容および変容を受けているかを考察する。また、「行列する絵巻」群および江戸絵物語のデジタル画像収集と分類作業を通じた対照・分析や水陸斎儀礼書の検討を行う。 また、年度末には、西尾市岩瀬文庫において、「草木国土悉皆成仏」思想と水陸斎思想との関連性の分析も中心とした研究成果を報告する。なお、異本『是害坊絵巻』と異本『百鬼夜行絵巻』の詞書の対照を行い、その分析内容を論文として発表する予定である。さらに、器物の擬人化(付喪神)に関して、特に異本『是害坊絵巻』、異本『百鬼夜行絵巻』、『掲鉢図』、その他の「お伽草子」に描かれる擬人化された動植物の物語内容との対照を継続して行う予定でもある。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランス国立図書館から取得した画像の金額請求がフランス国立図書館の都合で遅れたため(予定では二月末:請求番号:043055-01)。
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次年度使用額の使用計画 |
フランス国立図書館およびギメ美術館の画像取得料として10万円(前年度の1,845円も含む)、フランス、韓国、中国への調査旅費として65万円物品費として10万円、人件費として5万円、間接経費として27万円を使用する予定である。
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備考 |
2014年度から今まで主宰していた研究会を「絵ものがたり研究会」とタイトルを変え、研究会を定期的に行っている。
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