研究課題/領域番号 |
26580045
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 信博 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 助教 (90345843)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 動植物の擬人化 / 百鬼夜行絵巻 / 水陸斎の思想 / 是害坊絵巻 / 草木国土悉皆成仏 / 付喪神 |
研究実績の概要 |
本研究は、絵巻・絵物語に描かれる動植物・食物の擬人化を対象とし、先行研究の少ない『掲鉢図』や中国の宗教儀礼である水陸斎の思想が日本の絵巻・絵物語に与えた影響を調査・研究することを目的としている。 2015年度は以下の調査を行った。1.ギメ美術館「水陸斎」図の再調査 2.京都国立博物館委託作品「掲鉢図」(個人蔵)の調査 3.韓国の寺院蔵「水陸斎」図の調査 また、2015年度は以下の研究集会で、研究対象に関わる研究発表を行った。 1.「異本「百鬼夜行絵巻」・「是害坊絵巻」などからみるファンタスティックな世界」、国際研究集会「Genealogy Of Fantasy In Japanese Culture」、2015年12月、ストラスブール大学 2.「異本『百鬼夜行絵巻』からみる江戸時代の擬人化とその世界」、韓国日本言語文化学会秋季大会、2015年11月、高麗大学 3.「異本『百鬼夜行絵巻』・『是害坊絵巻』などからみる江戸期の世界観」、国際研究集会「東の妖怪・西のモンスター」、2015年10月、学習院女子大学。 さらに、以下の論文を発表した。1.「擬人化の転換期において」、『妖怪・憑依・擬人化の日本文化―異類文化学入門―』(笠間書店) 2.「『六条葵上物語』翻刻・注釈研究からみる擬人化された物語」(共著)加えて、NHKから、この研究テーマに関して、取材を受け、2016年4月中に放映される予定である。 なお、昨年度からの課題であった異本『是害坊絵巻』(慶應大学、ホノルル大学、野村美術館所蔵本)や異本『百鬼夜行絵巻』(京都市立美術館、東京国立博物館、スペンサーコレクション本)の比較研究が終了し、来年度には、その研究成果を公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した調査のうち、北京、上海に所蔵される「掲鉢図」の調査が進んでいない。一方、予期していなかったフレア美術館やボストン美術館蔵「掲鉢図」の画像が手に入り、また、個人蔵の絵巻も調査できたことから、思った以上に比較研究が進んだ。 ところで、スペンサー本異本『百鬼夜行絵巻』の詞書には、描かれる道具や植物が地獄で苦しむ表現があり、食物を擬人化した『六条葵上物語』、『月林草』も同様である。一方、研究テーマである異本『是害坊絵巻』にはそのような表現はないが、同時代成立の謡曲などには、天狗も地獄に落ち、苦しむ表現が見られ、この異本『是害坊絵巻』にも、仏に様々にからかわれるなどの詞書があることから、中世的な外道としての天狗より、異類として天狗を見る傾向が生まれている可能性があることが分かり、異本『百鬼夜行絵巻』と同様な思想から成立していると推定できる。 このように、動植物・食物の擬人化をテーマとして出発したこの研究は、異類・異形の研究へと発展しており、進捗状況は、かなり順調に進展しているといえる。 また、『掲鉢図』、『水陸斎図』からモチーフ毎に詳細に分類し、分析を行い、動植物や魚類を擬人化し、可視化した室町後期の絵物語との関係性を考察することも目標にしているが、分類が終わったことから、今後の課題は分析へと移る。さらに、『掲鉢図』や『水陸斎図』に描かれる道具類を援用し、「祭礼図」や「風流」を描く新たな風俗画や絵物語の創出が行われた事実を明らかにする点は、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
上述したが、『掲鉢図』、『水陸斎図』から、動植物や魚類を擬人化し、可視化した室町後期の絵物語との関係性を今後の考察課題とする。さらに、描かれる道具類を援用し、「祭礼図」や「風流」を描く新たな風俗画や絵物語の創出が行われた事実を明らかにする点も、今年度の課題である。さらに、昨年度の目標であった水陸斎の儀式書、志磐『法界聖凡水陸勝会修斎儀軌』などでの、施食法や水陸斎儀礼の分析はまだなされていない、実宝寧寺関係資料の分析、日本での残存資料の検討も今年度に行う予定である。 そして、『水陸斎図」や『掲鉢図』がどのように受容され、変容し、日本の絵物語に影響を与えたかを検討する。儀礼・思想から徐々に離れ、独自の絵物語として発展する動植物が擬人化された絵巻群の詳細な分類によって、図像を構成する各モチーフがどのようなメッセージを発信しているのかを考察することから、中国文化受容や日本の文学創造の特徴の一端が解明されるであろう。 つまり、儀礼行為を資料として対象化し、構造分析ないし象徴論的解釈を行い、「神・仏-植物・食物-身体-新たな絵物語としての文学創造」という世界観全般を考察し、日本文学が持つ豊かな表象創造の可能性を追究し、新たな歴史的原理の開発や方法論の確立を最終年度には目指したい。 さらに、描かれる幽鬼が所持する道具と疫神から逃れる民間呪術や鬼子母神信仰との関連性も今年度中に解明したいと考える。 なお、研究報告書として、本年度中に二冊の共著を出版する予定であり、発表報告もすでに本年度8月、さらに、ブラジルで、ラトビアでの研究集会で行う予定となっている。
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