本研究は、作家と読者を結び、作家と装幀家あるいは芸術家を結ぶ役割をしている装幀について注目した研究である。装幀をめぐる作家と装幀家あるいは芸術家の思惑と、芸術家の作品を装幀に纏うことに宣伝効果を期待する出版社の思惑を対比する中で、活字文化と美術が共鳴していく過程を明らかにすることを目的としている。 最終年度である本年度は、「書窓」「図書」「図書新聞」「古書通信」「装幀特集の雑誌」を中心に、戦後復興期の装幀と造本をめぐる作家、装幀家、出版社の三者の動きを調査し、ブックデザイナーが出現する60年代(昭和35年~40年)までの、作家、装幀家、出版社の見解について文献調査を行った。文献調査は、日本近代文学館(東京都)および国立国会図書館(東京都)で行った。 物資が不足していく中での装幀・造本についての、作家あるいは装幀家の発言が激減していることは昨年度の調査で確認をしたが、今年度の調査対象である戦後復興期でも積極的な発言の復活が見られないことを確認した。また、昭和10年ごろまでに見られた、「作家たちの言い分」と「装幀家たちの言い分」が交錯しながらも共鳴し、一冊の書物を生み出す過程は形を変え、装幀家(ブックデザイナー)主体の造本へと変化していくことを確認した。 装幀と造本に関する議論がされ始めた明治からブックデザイナーが出現する昭和40年ごろまでに出された、装幀と造本に関する作家側の見解と装幀家・芸術家側の見解についての文献調査とその概要については、室生犀星、恩地孝四郎、岸田劉生を中心に期間内に終えることができた。しかし、詳細な分析に基づく論文化が年度内に仕上がらなかったため、29年中に論文化し発表したい。
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