研究課題/領域番号 |
26580050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大石 和欣 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (50348380)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 女性 / チャリティ / 奴隷貿易廃止運動 / 経済 / 消費文化 / ギャスケル / 文学 |
研究実績の概要 |
本年は18世紀における消費文化と女性との関係を考察しながら、両者の関係が女性による奴隷貿易廃止運動のなかにどう表出し、言説化されているかを吟味し、同時に19世紀半ばに活躍したユニタリアン小説家ギャスケルの小説中の女性たちの経済観を考察した。 奴隷貿易はヨーロッパとアフリカ、アメリカ大陸の間を媒介して行われた三角貿易の一要素であり、玩具、砂糖、タバコ、機械工業品などの奢侈品の流通と不可分に結びついたものである。同時に、国内における余剰資本の投資を原動力の一つとし、貿易による利益が資本として国内に還元されていく過程をたどった。多くの女性たちが関与した奴隷貿易廃止運動は、砂糖の不買運動など奢侈品の消費を抑制することを目標に掲げていたことの意味を解きほぐした。その一方で、チャリティは一種の贈与とみなすことも可能であり、この時代において慈善団体への豊富な資金が集まりながら、非効率なチャリティ活動しかできなかったことへの批判が女性たちから噴出することになる。こうしたことをすでに保有している資料を中心にして研究を進め、学会発表と論文執筆を行った。 また、上記研究と並行して、ギャスケルの小説における女性と経済の問題を宗教的観点から検証した。夏期にはマンチェスター、ロンドン、オックスフォードでの資料調査を行い、同時代のマンチェスター近辺の男性ユニタリアンたちの経済観と言説に対してギャスケルが小説内で女性の立場から批判と反駁を行っていることを立証した。調査結果はギャスケル協会において発表のうえ、現在論文としてとりまとめているところである。 文学と消費の問題については、6月に開催された国際学会Romantic Connectionsにおいても日本におけるロマン主義の受容と女性の表象に絡めて口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
19世紀初頭の女性と経済の問題にはまだ深く食い込めていないが、その前後における経済的文脈についてはかなり明らかになった。それを土台にして今後19世紀初頭のより精緻な研究に踏み込むことが可能である。 また、ギャスケルに関しては国内外でもまだ研究されていない男性ユニタリアンの経済観に対する批判をギャスケルの言説の中に読み込むことが、イギリスにおける綿密な調査の中から浮かびあがってきており、大きな成果であると考えている。現在論文を取りまとめている作業のさなかであるが、平成27年度中に活字として研究成果をあげることが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本研究の最大の目的である19世紀初頭、とくに1820年代の女性と経済の関係をハリエット・マーティノーの散文や小説の中に深く考察していくことになる。その際に本年度調査したユニタリアンたちの言説の調査が大きな意味を持つと考えている。マーティノーも同じユニタリアンであり、ハリエットの兄ジェイムズはリヴァプール在住中マンチェスターのユニタリアンとも懇意であった。経済的にはリベラルな立場に立つユニタリアンたちの中で女性たちがどのように経済をとらえていたのかを今後明らかにすることが容易になる。
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