研究課題/領域番号 |
26580050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大石 和欣 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (50348380)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 女性 / 公共圏 / 経済 / 資本主義 / 慈善 / ギャスケル / ユニタリアン |
研究実績の概要 |
平成27年度は、エリザベス・ギャスケルの言説を中心にして調査を進めた。19世紀前半の資本主義およびマンチェスターの資本家の多数を占めるユニタリアン派の産業資本家たちの立場と言説との比較が主な目的である。19世紀初頭より綿工場を基軸として急速な産業都市へと成長したマンチェスターでは、資本の集中と投資熱の高まりが顕著であった。その一方で貧困と住居環境の悪化が深刻化していく。そうした背景のなかで知識と技術の社会的普及を目的としてさまざまな協会が設立され、講演会や会合が頻繁に行われていた。ユニタリアン派の信徒たちはその中でも中心的な存在として、そうした公的活動や教育に関与していた。ユニタリアン派の牙城となっていたのがクロス・ストリート礼拝堂であり、その牧師補をつとめていたのがギャスケルの夫となったウィリアム・ギャスケルである。歴史学的観点からはこうしたユニタリアン派の宗教観と経済活動や資本、および公的活動については概論的な説明はある。 エリザベス・ギャスケルの小説および書簡、活動からは、女性たちが男性たちの活動と並行して、女性たちが慈善や教育の領域において積極的に関与していくことを肯定的にとらえる姿勢が明瞭に浮かび上がってくる。勤勉と独立を美徳として訴える女性たちの言説には、資本という言葉や概念は用いられないものの、産業活動や投資活動を否定するのではなく、人間同士の関係を構築し、社会を活性化させていく基軸としての金銭という考え方があり、カーライルが批判する「金銭関係」(cash nexus)という概念をむしろ再構築して評価していく立場が見られる。その中心として女性たち自身が置かれている。「家庭の天使像」というヴィクトリア朝的な反経済的な女性像では捨象されてしまいがちな経済観が潜在している。このテーマについては論考を一本執筆中であり、次年度に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予想以上の収穫はあったものの、読み切れていない資料が残っている。また、論考執筆はできたが、投稿まではいきつけていない。最終年度は1820年代に軸足を戻して研究遂行をすることで研究を完遂できると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度になるが、昨年度の研究成果を論文のかたちで投稿すると同時に、1820年代の状況を資料調査を通して明らかにしていく予定である。可能であればジョージ・エリオットまで射程を広げていきたいが、時間的に許す範囲で調査を取りまとめて論考にする予定である。 来年度夏に2週間ほどのイギリスでの資料調査を行う予定である。 来年度後半は最終年度として成果のとりまとめと、今後の研究の方向性をあきらかにしていく予定である。
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