イギリス・ロマン主義を代表する批評家・ジャーナリストのウィリアム・ハズリットの思想における啓蒙思想の影響、およびハズリットの共感的想像力論の同時代の詩人への影響をテーマとして、ハズリットの唯一の思想書『人間精神の本性的無私性について』を中心に研究を行い、たとえばハチスンの生得的道徳感覚に基づく慈愛の思想と、結果的には同じように見えるハズリットの無私的共感論が、想像力の働きとして分析され、未来の自己の他者性という新たな原理に基づいて展開されている点において異なっていることを確認し、論文として公表した。 最終年の28年度の成果としては、ハズリットの共感的想像力論が彼の文学批評においても基盤となっていることが、ワーズワスとシェイクスピアについての批評を照らし合わせることによって明らかになった。つまりハズリットによればワーズワスの作品はすべて自己自身への排他的関心を示しており、他方シェイクスピアの劇作品の多様な人物は、作者の自在な共感的想像力を示すものである。このハズリットの批評は同時代の詩人キーツに最も直接的な形で受け入れられたが、その影響は、後世のロマン主義論にも深く浸透していることは注目すべき点であろう。つまり想像力が共感能力として定義づけられ、その文学における重要性が強調されたこと、そしてロマン主義における一つの目立った現象としてのシェイクスピア崇拝が、この想像力論によって理論的に基礎づけられたということにおいて、ハズリットの議論は、啓蒙思想における共感論の伝統をロマン主義的想像力として発展させたものであり、イギリス・ロマン主義の基調の一つとして後世に受け継がれたと言えるのである。
|