科学研究費助成事業補助事業期間延長の申請が承認されたため、当該研究の最終年度であった平成28年度の未使用額を平成29年度の外国旅費に充て、パリ、メッス等においてフィールドワークを実施した。主たる目的は、メッスにあるサン=マクシマン教会のステンドグラスに関する実地調査である。同教会のステンドグラスは、コクトーが最晩年に手掛けたものであり、独特の彩色が観る者の目を捉えるが、そこに描かれた一つひとつの図案に注目すれば、それらが通常のカトリックの教会・礼拝堂に見られるステンドグラスのものとは著しく性格を異にしていることがわかる。例えば、頻出するモチーフである鳥は、天への飛翔、つまり昇天をイメージさせるモチーフとして、あるいは平和の象徴として用いられるのが常だが、コクトーが描いた鳥は、いずれも奇妙なことに下方に向かって飛翔している。堕天を思わせる描き方がなされているのである。さらには、宗教とは無縁に思われるロボットのような図案も見受けられる。 本研究の目的は、晩年のコクトーが「空飛ぶ円盤」(UFO)や「前衛考古学」を肯定して現代物理学に反旗を翻した「超科学」の思想に傾倒していたことを明らかにすることにあるが、その一環として、サン=マクシマン教会のステンドグラスに見られる非カトリック的な異形のモチーフ群の中に「空飛ぶ円盤」や「前衛考古学」に通じるものの存在が確認できるのではないか、と考え、今回の調査研究を実施した次第である。一見して明白な関連性を見出すことこそできなかったものの、数々の不可解な図像の意味を理解する上で「超科学」の視点が有効に働く可能性を実感することができた。
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