研究課題/領域番号 |
26580066
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 禎宏 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (80334564)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 手応え / 手仕事 / 工芸 / 情報通信技術 / 民藝運動 / 20世紀 / イギリス / 日本 |
研究実績の概要 |
研究計画に基づき、平成26年度は(A)「手応え」に着目した文化論の理論研究、(B)20世紀後半の日英における手工芸のあり方についての調査、及び(C)その他(手工芸以外の分野)の事例の調査という、三つ方針に基づいて研究を進めた。 (A)については、柳宗悦(1889-1961)と大島清次(1924-2006)の著作における「手」の位置づけについて研究した。具体的には国際日本文化研究センターが所蔵する、大島の未刊行の書籍原稿を調査し、20世紀前半の柳の思想との差異を検討した。大島の著作の調査を完了するには至っていないが、柳が提唱した「手仕事」論と、当研究課題が構想する「手応え」論をつなぐ思想として、大島の著作の一部が有効であることが確かめられた。 (B)については、「対抗産業革命」という思想の事例として日本の民藝運動とイギリスのスタジオ・クラフト運動に着目した。日本とイギリスで調査を行った結果、これらの思想・活動が20世紀後半にどのように変容したかがわかってきた。さらに、情報通信技術(ICT)が諸工芸の存続を支えるという構造が一般化している点や、3Dプリンターのような新技術の登場に伴い「手仕事」「工芸」という思想の再検討が要請されつつあるという点で、日本とイギリスが共通の課題に直面していることが分かった。 (C)については、研究対象として有望な新しい事例は見つからなかった。しかし、千葉大学でロボットの研究開発の現場を見学するなど、人文学以外の分野の成果に目を向け、新たな知見の発見に努めた。 上記のように「手応え」の理論形成に関する見通しが広がり、「手仕事」という思想が20世紀後半にどのように実践されたかに関する調査が進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大島清次の著作に関する調査が当初の予定よりも遅れている。しかし一方でイギリスにおける工芸や工芸研究の現状について知見を新たにした点と、20世紀後半における民藝運動やスタジオ・クラフト運動についての調査が進んだ点で進展があった。 これらを勘案すると、「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に大きな変更はない。 平成27年度前半は平成26年度とほぼ同様の方針で研究を進める。ただし、研究の進捗状況に遅れに鑑み、平成26年度の方針における(C)については継続しないこととする。 平成27年度後半以降は、調査・分析から成果のとりまとめへと研究の重点を徐々に移していく。すなわち、柳宗悦と大島清次の「手」にまつわる思想をふまえ、「手応え」(精神的・身体的な抵抗・摩擦感)と「健康」の感覚の関わりについての理論をまとめる。さらに、そうして得られた視座を、収集した事例に当てはめ、分析していく作業を行う。これは柳の提唱した「手仕事」の思想が20世紀後半から21世紀にかけてどのように語られたかに着目し、その「語り」のあり方を「手応え」という別の視点から問い直す作業でもある。 これらの作業の傍ら、自然科学系と社会科学系の研究者や、その他美術・工芸の実践者達とも意見交換を行っていきたい。
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