研究課題/領域番号 |
26580066
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 禎宏 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (80334564)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 手応え / 手仕事 / 工芸 / 情報通信技術 / 民藝運動 / アーツ・アンド・クラフツ運動 |
研究実績の概要 |
研究計画に基づき、平成28年度は (A)「手応え」に着目した文明批判の理論研究と、(B) 20世紀後半の日英における手工芸のあり方についての調査という、二つの方針に基づいて研究を進めた。 (A)については前年度に続き、大島清次(1924-2006)の思想研究を行った。具体的に的には、京都の国際日本文化研究センター所蔵の大島の著作の調査をふまえ、その内容の分析を試みた。また、「手応え」論にまつわる問題意識の一端を論文として発表した。 (B)については、「対抗産業革命」という思想の事例として、前年度に引き続き日本の民藝運動とイギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動を中心に、20世紀の工芸の在り方について考察した。具体的には長野県松本市、大坂府大阪市、石川県金沢市、茨城県笠間市などにおいて近・現代の陶芸や諸工芸・デザイン関係の展覧会などを調査・見学したり、兵庫県篠山市の陶芸家と栃木県益子町の染織家にインタビューを行ったりした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、柳宗悦と大島清次の「手」にまつわる思想を対比・接続し、そうして得られた知見を20世紀の手工芸の分析に適用する作業を通じて、「手応え」(抵抗・摩擦)感と「幸せ」の感覚についての理論化を試みる予定であった。しかし実際には、情報通信技術が文化に及ぼす影響についての既存の研究を参照することや、大島の著作の分析に時間をとられ、理論化までには至らなかった。 20世紀後半の日英における手工芸の調査においては、作品や人物、事跡の評価(あるいは再評価)が進行していることを確かめた。市場においては相変わらず「手仕事」という言葉が根強く用いられ、「手」にある種の倫理観が仮託されている。その一方で若い世代の工芸作家の中には、情報通信技術を駆使して自らの制作姿勢やライフスタイルを発信し、従来の「手仕事」言説を結果的に相対化するような動きが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
「手応え」という言葉が工芸の現状を理論化する上で有効であると思われる点で、研究の基本的方針に変更はない。進捗状況の遅れに鑑み、補助事業期間を延長する。平成29年度には大島清次の思想の分析結果や「手応え」の理論をまとめたい。
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