本研究は,言語由来の事象関連電位(ERP)成分として,しばしば議論される潜時約600msの陽性成分(P600)に注目し,日本語文の視覚呈示に伴う脳波計測によって,言語知識の神経基盤を考察し,既存の言語理論の再検討を試みた。 文処理が惹起するERPは,統語理論の神経科学的根拠として広く受け入れられてきたが,近年,あるERP成分を惹起する言語現象は一つではないことが明らかになった。本研究では,様々な構造特性を持った数量詞遊離を含む日本語文を実験文とした実験を行い,種々の数量詞遊離に伴う脳波について潜時帯,極性,頭皮上分布を考察し,構造特性とERP成分との対応を検討した。さらに時間周波数分析を施し,ERP 成分の内部構造を詳細に検討した。本研究成果については,今年度,国内外の学会での報告を予定している。さらに,異なる脳領域における脳波が同期する大域的同期を考察することで,言語知識のモジュラリティを再検討する予定である。
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