古代語の条件文は典型的には、「未然形+バ」型式で表現される。これまでの文法史研究では、このタイプについての記述が積み重ねられてきた。それと同時に、その周辺にいくつかの表現タイプが存在することが指摘されていた。具体的には、「~ムニ」「~ムハ」「形容詞未然形+ハ」である。本研究では、これらを「非典型的タイプ条件文」と呼んで記述分析を進めた。古代語の条件文の全体像については、報告書「研究編」において、「条件文とモダリティ表現の接点―「む」の仮定用法をめぐって」で展望した。研究を進めていくなかで、次の重要なポイントに気づいた。 一つは、条件文と疑問文との連続性である。条件文は疑問文と親和性をもち、複文構造において前件が条件節である場合、帰結部が疑問文(反語文含む)である例がしばしば見られる。疑問文の本質が、非現実性において条件文と通底する性質を持つと思われる。その観点からの研究成果は、研究編「中古語における疑問文とモダリティ形式の関係」で明らかにしている。古代語の疑問文の研究は開拓の余地があり、条件文との関係に限らず、今後進めていく必要がある。 もう一つは、準体句との関係である。「準体句+ハ」は文脈条件によって、「未然形+バ」に相当する意味を表すことが知られている。典型的タイプとの連続性を捉え、相対化する上においては、「準体句+ハ」の記述分析が重要である。その研究成果は、研究編「準体句とモダリティの関係をめぐって―中古語の実態」で述べた。準体句の研究は、接続法、主題論等にも広がっていくテーマであり、疑問文と同様、今後の進展が待たれる。 今後の研究の方向性としては、文構造論において条件文の基礎研究としての準体句の記述を進めることと、文表現論において条件文と疑問文との連続性を記述していくことである。この2点を明らかにすることで、本研究の課題は解決の見通しを得たと思われる。
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