本研究の目的は、中国人介護留学生を対象に、介護福祉士国家試験合格前に介護施設でアルバイトを行う場面から、国家試験合格後の就労の場面でのやりとりまでを収録し、当該業務で必要とされる日本語能力を会話データから具体的に明らかにすることである。分析は、介護福祉士国家試験の分析とアルバイト場面の分析の二方向から行った。 まず、介護福祉士国家試験の分析では、筆記試験の日本語を旧日本語能力試験の観点から文法・語彙項目のレベル別の集計を行った。この結果、文法は限られた2級までの項目、語彙項目は級外に至るまでの専門語彙が多数出現する傾向がみられた。 次に、アルバイト場面の分析では、中国人介護留学生2名を対象に会話データを収録した。分析では、データを3種の作業の談話((1)介助に関わる作業、(2)周辺的な作業、(3)その他)に分類し、各談話別に発話数(留学生、日本人スタッフ、利用者)を集計した。このうち、留学生の発話は旧日本語能力試験の観点から文法・語彙項目のレベル別の集計を行った。分析の結果、談話数は(2)の値が高いが、発話数は(1)で高く、留学生主導でやりとりが展開していたと考えられた。一方、文法・語彙項目の分析では、文主導法は限られた2級までの項目、語彙は3級から級外に至る項目が出現する傾向がみられた。また、両項目とも話し言葉が多く、特に語彙は介護の現場に依存した表現が出現した。 つまり、旧日本語能力試験の観点では、国家試験とアルバイト場面の文法・語彙項目は集計上は類似の傾向もあるが、質的に異なる項目が多数使用されていることがわかり、単純に日本語能力試験の特定のレベルを目標とした日本語学習ではどちらにも効率的とはいえない点が明らかとなった。就労場面は調査ができなったが、本研究の成果とこれまでの介護技術講習会の分析をふまえて今後も研究を継続し、介護の専門家とともに効率的な日本語学習について検討する。
|