本研究は日本人英語学習者の英語習熟過程を明らかにするため、行動指標である課題正答率と反応時間を計測し、さらにはfMRIを用いた脳機能計測実験によって脳機能データも収集し、英語習熟度との関係性を明らかにすることを目的とした。得られた結果は以下のとおりである。
行動指標である課題正答率と反応時間と、英語習熟度との関係性については、「主語」「述語」「目的語」の単純な構造の文についてのself-paced readingの手法により、反応時間と習熟度との関係性は、どの部分についても見られなかった。一方、述部においてのみ、母語である日本語と外国語である英語での反応時間について、相関関係が見られた。これらの結果より、習熟度自体は反応時間には強い関係性は見られず、それよりも母語の言語理解速度が外国語の言語理解速度に関係する、つまりは、言語処理能力の個人差の方が習熟度よりも影響が強かった、ということが明らかになった。また、リスニング力とリーディング力との関係において、リスニングに関する習熟度がリーディングにおける文理解速度と有意な相関が見られた。この結果は、理解において時間的な制限があるリスニングにおける能力が、リーディング時の理解力にも関係があるという点で、音声入力と文字入力という異なるモダリティによる言語理解において、言語理解力自体は共通のシステムが存在することを示唆している。
行動指標と脳反応との関係性については、fMRIによる言語理解実験を行った。fMRIによって文理解中の撮像を行った脳活動データから言語刺激理解時間を推定させた結果、推定された理解時間と実理解時間との間に有意な相関関係が見られた。これは、脳反応データと行動データとの間の関係が、数学的・統計学的に関係があることを意味しており、行動指標と脳反応との間に予測可能な関係が存在することが明らかになった。
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